生存者の証言
青十字支援隊が襲撃されてから数日後。
共和国中央病院。
銃撃から生還した青十字職員と新聞記者が帰国した。
傷だらけの姿で病室へ運ばれた彼らのもとへ、ベレ達が訪れる。
「無理に話さなくても構いません」
ベレが静かに声を掛ける。
すると、一人の男性職員がゆっくりと口を開いた。
「……いえ。伝えなければなりません」
部屋は静まり返る。
「私達はルー地方の中堅都市へ向かっていました。ですが……」
「街へ到着しても、人の姿がまったくありませんでした」
ベレが眉をひそめる。
「誰も……いなかった?」
「はい。市場も、住宅街も、子どもの姿さえありませんでした」
「何かがおかしいと思い、皆で住民を探し始めました」
そこで男性は苦しそうに息を整える。
「突然でした。遠くから砲撃音が聞こえました。私は戦争経験があります」
「忘れるはずがありません。あれはランス軍の野砲特有の発射音でした」
部屋の空気が一変する。
「砲弾は、まるで狙っていたかのように着弾しました。私達は全員、ばらばらに逃げました」
「……あれは偶然ではありません。最初から待ち伏せされていた。罠だったと思います」
続いて、同行していた女性記者が証言する。
「私は住民を探して路地へ入っていました。その時、遠くで砲撃の音が聞こえました。すぐ地面へ伏せました」
「ですが……」
女性記者は少し震えながら続ける。
「住民は誰一人として逃げてきませんでした。砲撃があったのに、誰もです。もしかすると……最初から街には誰もいなかったのかもしれません」
その言葉に、誰も口を開けなかった。
ヘルムが静かに呟く。
「避難させたのか……それとも……」
ベレは静かに目を閉じた。
「写真はありますか」
女性記者はカメラを差し出した。
現像された写真が机へ並べられる。
人影のない大通り。閉ざされた商店。
窓の割れた家々。砲撃でえぐられた道路。
横転した青十字の荷馬車。
医薬品や食料が散乱した現場。
そして、青十字の旗に開いた無数の銃弾の跡。
部屋は重い沈黙に包まれた。
ラインは拳を強く握る。
「これが……現実ですか?」
ベレは一枚一枚の写真を見つめながら、小さく呟いた。
「こんなことが……許されるはずがない」
ヘルムは写真をまとめる。
「これだけ証拠があれば、言い逃れはできねぇ」
外務大臣も力強く頷いた。
「直ちに各国へ送ります。共同調査団にも提出しましょう」
その日の夕方。
世界各国の新聞は、ルー地方で撮影された写真を一斉に掲載した。
『青十字支援隊襲撃現場の写真公開』
『人影の消えた街』
『人道支援車両にも砲撃の痕跡』
『ルー地方で何が起きているのか』
写真は世界中へ衝撃を与えた。
そして、ルー地方問題は、一地方の領土問題ではなく、人道問題として国際社会全体が向き合う問題へと変わり始めていた。




