共和国ブランド
総統官邸。
定例記者会見が開かれていた。
国内外の新聞記者が集まり、会場は熱気に包まれている。最初の質問は海外記者からだった。
「総統!共和国製品への注文が急増しているそうですね」
ベレは静かに頷いた。
「はい!おかげさまで、海外から多くの注文をいただいております」
工業大臣も資料を示す。
「トースターをはじめ、工作機械、工具などの共和国製品は品質の高さが評価され始めています。海外では『共和国製なら安心』という声も増えております」
会場では感嘆の声が上がる。
「世界恐慌の中で輸出が伸びるとは……」
「品質が認められた証拠ですね」
ベレは穏やかに答えた。
「品質は、一日では生まれません!現場で働く職人さんや技術者の努力があってこそです」
記者たちが一斉にメモを取る。
その時だった。
会場の扉が静かに開く。
ラインが珍しく慌てた様子で入ってきた。
「総統」
小さく呼び掛ける。
ベレは近寄り、ラインから折り畳まれたメモを受け取った。
メモには短く書かれていた。
『青十字支援隊、ルー地方到着後に銃撃を受ける。死傷者数名。詳細不明。』
ベレの表情が一瞬で変わる。
「……なっ」
思わず声が漏れる。
「青十字が……銃撃?」
会場がざわつき始めた。
「何かあったのか?」
「今、青十字って言ったか?」
「まさか、人道支援部隊のことか?」
「国際機関への攻撃だぞ……」
ざわめきは瞬く間に広がる。
ベレは深く息を吸い、演台へ戻った。
静まり返った会場を見渡す。
「皆さん落ち着いてください」
全員がベレを見る。
「未確認情報ではありますが青十字の支援隊が、ルー地方へ到着後、何者かから銃撃を受けたとの報告が入りました」
記者席から驚きの声が上がる。
「銃撃!?」
「死傷者が出たのですか?」
ベレは静かに頷く。
「死傷者が出たとの報告があります。ですが、現時点では詳細を確認中です。憶測でお話しすることはできません」
一度言葉を区切る。
「事実関係を確認するため、本日の定例記者会見は中止とさせていただきます。続報が入り次第、改めて皆様へご説明いたします」
そう言って一礼すると、ベレは足早に会場を後にした。
会場には重苦しい空気だけが残る。
海外記者たちは一斉に通信室へ走り出した。
「青十字が攻撃された!」
「至急、本国へ打電しろ!」
「世界的な大事件だ!」
ヘルムはベレの後ろ姿を見送りながら、小さく呟いた。
「……始まりやがったか?」
共和国ブランドが世界で評価され始めたその日。
世界の視線は、一瞬にしてルー地方で起きた銃撃事件へと向けられることになった。




