ルー地方からの手紙
総統執務室。
朝早く、ラインが一通の封筒を持って入室した。
「総統!ルー地方からです」
ベレは驚いて顔を上げる。
「ルー地方から?」
「はい。差出人の名前はありません。秘密裏に届けられたようです」
ベレは慎重に封を開けた。
中には一枚の便箋が入っていた。
震える字で書かれている。
『総統閣下へ先日のラジオ演説を聞きました』
『まさか、この地まで声が届くとは思っていませんでした』
『私達は共和国から忘れられたと思っていました。ですが、違いました』
『総統は私達を忘れていなかった。炭鉱では今も厳しい毎日が続いています』
『それでも、あの日から皆の表情が少し変わりました。必ず助ける。その言葉だけで、私達はもう少し頑張れます』
『どうか、お体にお気を付けください。ルー地方の共和国国民より』
読み終えたベレは、しばらく言葉を失った。
便箋を胸へ抱き寄せ、小さく呟く。
「待ってて……」
瞳には涙が浮かんでいた。
「必ず……必ず迎えに行くから」
部屋は静まり返る。
ラインもヘルムも何も言わず、その姿を見守っていた。
やがてベレは涙を拭き、顔を上げる。
「ラインさん」
「はい」
「人道支援物資はどうなっていますか?」
ラインはすぐに報告した。
「はっ!既に共和国を出発しております。食料品、生活必需品、医薬品を積んだ荷馬車隊は、予定通り進んでおります。明後日にはルー地方へ到着する見込みです」
ベレは安堵したように頷く。
「良かった」
ラインは続ける。
「それと青十字の支援物資に同行する形で、一部の新聞記者も現地へ向かっております」
ベレは少し驚く。
「記者さんが?」
ヘルムが腕を組みながら答えた。
「恐らく現場を自分の目で見に行くんだろう?写真も撮るはずだ」
ベレは静かに頷いた。
「そうか……それなら、世界に現状を知ってもらえる。私達が何度、説明するより、一枚の写真の方が伝わることもある」
ヘルムは笑った。
「その通りだ。真実ってのは隠したくても隠せねぇ」
ベレは窓の外を見つめる。
「どうか……皆さんが無事でありますように」
その日の夕方。
ルー地方へ向かう支援荷馬車隊は、共和国の国旗と青十字の旗を掲げながら国境へ近づいていた。
その後ろには、カメラを抱えた数人の記者たちの姿もあった。
彼らが目にする現実は、やがて世界を大きく動かすことになるとは、まだ誰も知らなかった。




