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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者: 稔


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世界への訴え

総統執務室。

ヘルムは一冊の分厚い報告書を机へ置いた。


「ルー地方の最新報告だ」


ベレは静かに資料を開く。


炭鉱の生産量。

鉄鋼の生産量。

住民の生活状況。

読み進めるにつれ、表情が曇っていく。


「……酷い」


ヘルムが腕を組んだ。


「炭鉱は昼夜問わず稼働。労働者は休みもほとんどねぇ。事故も増えてる。住民の不満も限界だ」


ベレは静かに報告書を閉じた。


「今でも二カ国へ抗議は続けています」


外務大臣が答える。


「はい。ですが……返答はありません。いわゆる黙殺です」


部屋に重い空気が流れる。

ベレは窓の外を見つめながら呟いた。


「抗議だけでは……何も変わらない」


少し考えた後、ラインへ振り返る。


「ラインさん」


「はい」


「記者会見を開きます。国内外を問いません。世界中の記者さんを集めてください」


ラインは一礼した。


「承知しました」


数日後。


共和国官邸。

大勢の国内外の記者が集まっていた。


「突然の記者会見?」


「何かあったのか?」


「外交問題か?」


会場はざわついていた。

ベレが壇上へ上がる。

静かに一礼した。


「本日は、お集まりいただきありがとうございます。本日は、ルー地方の現状についてお話しします」


一枚目の写真が映し出される。

疲れ切った炭鉱労働者。崩れかけた住居。

痩せ細った子どもたち。


会場が静まり返る。


「これが現在のルー地方です」


「共和国の国民が、今も苦しんでいます」


二枚目。炭鉱事故の資料。

三枚目。長時間労働の記録。

四枚目。住民の証言。


ベレは静かに語り続けた。


「ルー地方は資源だけではありません。そこには人がいます。家族がいます。生活があります。どうか、この現実を知ってください」


会場から質問が飛ぶ。


「総統!共和国は武力で奪還するお考えですか?」


ベレは首を横に振る。


「いいえ。私は平和的な解決を望みます」


「ですが」


「ルー地方の人々には、自らの権利を守る自由があります」


一度言葉を区切る。


「もし、自らの命と尊厳を守るために働くことを拒むのであれば」


「共和国は、その意思を支持します。私はルー地方の皆さんへ呼びかけます。どうか、ご自身の命を第一に考えてください」


「無理な労働を続けないでください。必要であれば、ストライキという手段もあります」


会場は騒然となった。

各国の記者が一斉に記事を書き始める。


その日の夜。

世界中へ電報が飛ぶ。


翌朝。


メリカ国。ギリス国。本国。

各国の新聞は一斉に大きく報じた。


『共和国総統、ルー地方の実態を世界へ訴える』


『占領地の労働環境に国際社会が注目』


さらに、その日の午後。


外務省へ各国から電報が届く。


「メリカ国、共和国の平和的解決への姿勢を支持」


「ギリス国、ルー地方問題への国際協議を提案」


「本国、人道的見地から共和国を支持する」


外務大臣は興奮した様子で執務室へ駆け込んだ。


「総統!各国が共和国支持を表明しました!」


ベレは静かに頷く。


「ようやく……」


ヘルムは帽子を深くかぶり直し、口元に笑みを浮かべた。


「これで舞台は国内から世界へ移ったな」


ベレはルー地方の地図を見つめながら、小さく呟いた。


「必ず……皆さんを迎えに行きます」

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