銀行は潰さない
中央銀行。総裁室。
ルマルは山のように積まれた資料へ目を通していた。
民間銀行の経営状況。
企業への貸付残高。
政府債務。海外への賠償金。
一枚、また一枚と資料をめくるたび、表情は険しくなっていく。
「これは……」
「思ったより酷い状況ですね……」
秘書が静かに頷く。
「はい。世界恐慌の影響で、多くの銀行が貸し倒れ寸前です。企業も返済できず、銀行も新たな融資ができません」
ルマルはさらに資料をめくる。
「しかも……政府の負債も相当な額ですね。賠償金の支払いまで重なっている」
深く息を吐いた。
「このままでは、銀行が次々と潰れます」
その日の午後。
総統執務室。
ルマルは資料を抱えてベレを訪ねた。
「総統。少し、お時間をいただけますか?」
「もちろんです」
ルマルは資料を机へ広げた。
「現状を申し上げます」
「銀行は資金不足、企業は資金不足、政府も資金不足です。正直、通常の方法では立て直せません」
ベレは静かに頷いた。
「そうでしょうね」
ルマルは少し笑った。
「そこで、一つ提案があります。裏の手です」
ヘルムが腕を組む。
「ほぅ?裏の手とは?」
ルマルは一枚の紙を取り出した。
「手形です」
ベレは興味深そうに見る。
「手形?」
「はい」
「正式名称は、まだ決めていませんが……私は『メ手形』と呼ぼうと思っています」
ラインが首を傾げた。
「どういう仕組みですか?」
ルマルは黒板へ簡単な図を書き始めた。
「例えば、政府が道路工事を発注します。しかし、今すぐ現金を全額支払えません。そこで現金の代わりに『メ手形』を発行します」
黒板へ矢印を書く。
政府 → メ手形 → 企業
「企業は、その手形を中央銀行へ持ち込めば、一定条件で現金へ交換できます。つまり企業は資金繰りに困らず、政府も時間をかけて支払いができます」
ベレは目を輝かせた。
「なるほど。公共事業を止めずに進められるんですね」
「その通りです」
ルマルは続ける。
「さらに銀行も、この手形を信用して融資できます。企業も倒産しにくくなる。仕事も止まりません」
ヘルムがニヤリと笑う。
「面白ぇじゃねぇか。金が足りねぇなら、時間を買うって訳だ」
ルマルは頷く。
「もちろん発行しすぎれば危険です。ですから公共事業など、生産力を高める事業に限定します」
ベレはしばらく考えた後、ゆっくり頷いた。
「採用します。早速、制度を整えましょう」
ルマルは立ち上がり、一礼した。
「ありがとうございます」
「必ず共和国の金融を立て直してみせます」
ベレは笑顔で答えた。
「お願いします」
「銀行は潰しません。企業も潰しません。そして、働く場所も守ります」
その言葉に、その場にいた全員が力強く頷いた。
共和国は、新たな金融制度「メ手形」を武器に、世界恐慌という未曽有の危機へ立ち向かおうとしていた。




