もう一度、働ける場所
総統就任から二週間。
共和国政府は、ついに最初の大型公共事業を開始した。
翌朝。
全国の役所や駅前には、一斉に張り紙が掲示される。
『共和国公共事業 作業員募集』
募集内容
・道路整備
・河川改修
・鉄道補修
・港湾整備
失業者を優先採用します。
その知らせは、瞬く間に共和国中へ広がった。
「本当か!」
「仕事だ!」
「やっと働ける!」
各地の受付には、朝早くから長い列ができていた。
若者。職人。元工場勤務。建設作業員。
誰もが履歴書を握りしめ、順番を待っている。
受付の職員も驚いていた。
「こんなに集まるとは……」
その列の中には、見覚えのある顔もあった。
以前、農業機械の試作品を製作した町工場の元社長だった。
工場は恐慌で倒産。
従業員も解散し、自らも職を失っていた。
受付係が声を掛ける。
「お名前をお願いします」
社長は少し緊張しながら答えた。
「……元町工場経営です。機械加工を三十年やってきました」
受付係は書類を確認し、笑顔で頷く。
「技術者ですね。道路工事用機械の整備班へお願いします」
社長は驚いた。
「私が……ですか?」
「はい。経験者を優先しています」
社長の目に涙が浮かぶ。
「もう一度……働けるのか……」
隣では、以前一緒に働いていた職人とも再会していた。
「社長!」
「お前も来てたのか!」
「また一緒に仕事ができるな!」
二人は固く握手を交わした。
その様子を見た周囲の人々からも笑顔がこぼれる。
港では荷役作業員の募集が始まり。
鉄道では線路補修隊が編成される。
河川では堤防工事が始まる。
共和国中で止まっていた仕事が、一つずつ動き始めていた。
その頃、総統執務室。
ラインが報告書を持って入ってきた。
「総統。初日の応募者数です」
ベレは資料を受け取る。
「……こんなに」
わずか一日で、数万人の応募が集まっていた。
「皆さん、本当に仕事を待っていたのね」
ルマルも静かに頷く。
「恐慌で失われたのは、お金だけではありません」
「働く場所でした」
ヘルムは窓の外を眺めながら笑う。
「だから言ったろ?仕事を作るのが、一番早い景気対策だ」
ベレは応募者一覧を見つめながら、小さく微笑んだ。
「これで終わりじゃない。もっと仕事を増やしましょう。共和国中の人が、安心して働ける国にするために」
その日の夕刊には、大きな見出しが躍った。
『公共事業始動 失業者に希望』
『全国で応募殺到 共和国再建、第一歩』
街で新聞を読んだ人々は、自然と笑顔になっていた。
「仕事がある」
その一言は、世界恐慌に苦しむ共和国で、何よりも希望に満ちた言葉だった。




