最初の閣議
総統就任から数日後。
新政府の閣僚が決まり、初めての閣議が開かれることになった。
大きな会議室。
長い机を囲み、新しく任命された各大臣が席へ着く。
財務大臣。外務大臣。内務大臣。工業大臣。
農業大臣。交通大臣。教育大臣。
それぞれ緊張した表情で総統の到着を待っていた。
扉が開く。
「ヴィーダーベレ総統、入室」
全員が立ち上がる。
「おはようございます」
ベレは少し照れながら頭を下げた。
「皆さんも座ってください」
全員が着席すると、官房長官が口を開く。
「総統閣下。本日は新政府の組織について、ご承認をお願いいたします」
ベレは頷いた。
「お願いします」
最初の議題は、総統直属組織の新設だった。
「国家情報を一元管理するため、新たに総統直属の『情報部』を設立いたします」
ベレは迷わず答えた。
「責任者はヘルムさんでお願いします」
会議室が静まり返る。
ヘルムは腕を組んだまま苦笑した。
「俺かよ」
ベレは微笑む。
「共和国全体の情報を扱えるのは、ヘルムさんしかいません。お願いします」
ヘルムは帽子を取り、小さく一礼した。
「了解した」
続いて、ラインとヴァルが前へ出る。
「総統閣下。お願いがあります」
「どうしました?」
ラインが真っ直ぐ答えた。
「私達は今後も総統直属の護衛を続けたいと考えております」
ヴァルも続ける。
「そのため、新たに『親衛隊』を設立したく存じます」
ベレは少し驚く。
「親衛隊?」
ラインは頷いた。
「総統の護衛だけではありません。官邸警備、重要施設警備、非常時の対応。全てを担う部隊です」
ヘルムも口を開く。
「悪くねぇ案だ。総統直属なら指揮系統も分かりやすい」
ベレは笑顔で頷いた。
「分かりました。親衛隊を設立します。責任者はラインさんとヴァルさんのお二人でお願いします」
二人は敬礼した。
「ありがとうございます」
続いて官房長官が新たな資料を差し出す。
「最後に中央銀行総裁の任命です」
ベレは資料を見るまでもなく答えた。
「ルマルさんでお願いします」
ルマルは驚いて立ち上がる。
「わ、私ですか?」
「はい。銀行制度も金融も、一番勉強してきたのはルマルさんです。共和国の金融をお願いします」
ルマルは深く頭を下げた。
「謹んで、お受けいたします」
すべての人事が決まり、会議室は静まり返る。
ベレは席を立つと、黒板の前へ歩いた。
白いチョークを手に取り、大きく一言だけ書く。
『世界恐慌対策』
全員の視線が黒板へ集まる。
ベレは振り返った。
「今日から、この国を立て直します。優先順位は五つです」
黒板へ順番に書き込んでいく。
一、雇用
「仕事がなければ生活できません」
「まずは公共事業を始めます」
二、銀行
「銀行が倒れれば、お金が回らなくなります」
「中央銀行を中心に金融を安定させます」
ルマルが静かに頷いた。
三、農業
「国民が食べられなければ意味がありません」
「農業機械の普及を急ぎます」
農業大臣が力強く答える。
「お任せください」
四、工業
「工場を止めたままにはしません」
「技術者保護法と工業学校を活用します」
工業大臣も立ち上がる。
「全力を尽くします」
最後に、ベレは一番下へ大きく書いた。
五、ルー地方
会議室の空気が変わる。
「共和国の心臓部です。必ず取り戻します」
外務大臣が静かに尋ねた。
「外交で、ですか?」
ベレは頷いた。
「まずは外交です。しかし、どんな方法であっても、共和国の未来のために取り戻します」
会議室は静まり返った。
ヘルムが静かに笑う。
「やっと始まったな」
ベレは黒板を見つめながら、小さく頷いた。
「ええ、ここからが、本当の仕事です」
共和国新政府、最初の閣議。
それは、新しい時代の始まりを告げる歴史的な一日となった。




