変わらない人
総統就任から一夜明けた。
ベレはヘルムとラインに案内され、総統官邸へ到着する。
正面には巨大な建物。
赤い絨毯が入口からまっすぐ続いていた。
「ようこそ、総統閣下」
職員達が一斉に頭を下げる。
「えっ、あ……お、おはようございます」
まだ慣れないベレは、思わず普通に挨拶を返してしまう。
ヘルムは苦笑した。
「今日から、お前さんがこの国のトップだ。少しは慣れろ」
「無理ですよ……」
執務室の扉が開く。
ベレは部屋へ一歩足を踏み入れた。
「……広すぎる」
思わず立ち止まる。
豪華な調度品。大きなシャンデリア。
壁には高価そうな絵画。
そして部屋の中央には、巨大な執務机。
「この机……一人で使うの?」
ラインも苦笑する。
「歴代首相が使ってきた机です」
「落ち着かない……」
ベレは机を眺めながらため息をついた。
そこへ官僚達が次々と入室する。
「財務省です」
「内務省です」
「交通省です」
「農業省です」
「工業省です」
「外務省です」
各省の幹部が順番に挨拶を終える。
最後に官房長官が口を開いた。
「総統閣下。執務室の改装や調度品の交換など、ご希望がございましたら何なりとお申し付けください」
ベレは部屋を見回した。
そして静かに首を横へ振る。
「豪華な調度品はいりません」
官僚達が顔を見合わせる。
「え……?」
「その予算があるなら失業者支援へ回してください」
部屋が静まり返った。
「机も、このままで構いません。椅子も使えます。必要なのは見た目ではありません。国民の生活です」
ヘルムは腕を組み、小さく笑う。
「やっぱり変わらねぇな」
ラインも嬉しそうに微笑んだ。
「それでこそ、お嬢様です」
官僚は深く一礼する。
「承知いたしました。では、そのように手配いたします」
続いて、一冊の分厚い資料が机へ置かれた。
「総統閣下。続いて、内閣の編成についてご説明いたします」
ベレは首を傾げる。
「内閣?」
「はい。各省の大臣を任命していただきます。総統には、その権限があります」
分厚い名簿を開く。
そこには各省の候補者が並んでいた。
ベレは一人ずつ経歴へ目を通す。
「現職をそのまま残すのではなく……実力で選びます」
官僚達が少し驚く。
「党派ではなく、ですか?」
ベレは頷いた。
「はい。今は恐慌の最中です。必要なのは、派閥ではありません。共和国を立て直せる人です」
ヘルムは帽子を深くかぶり直す。
「面白くなってきたな」
ベレは名簿を閉じる。
「今日中に決めましょう。共和国を、一日でも早く前へ進めるために」
こうして、新たな共和国政府の内閣づくりが静かに始まった。




