野党第一党の初質問
総選挙から数週間。
新しい国会が始まった。
議場には緊張した空気が漂う。
今回から、シュタール労働者党は百一議席。
共和国最大の野党となった。
そのため、野党第一党党首であるベレが最初の代表質問に立つことになった。
議長が静かに告げる。
「それでは、シュタール労働者党を代表し、ベレ議員」
議場が静まり返る。
百一人の議員が一斉に立ち上がる。
ベレはゆっくり演壇へ向かった。
与党議員も。官僚も。傍聴席の記者達も。
全員がその姿を見つめている。
ベレは一礼した。
「議長。ありがとうございます」
深呼吸を一つ。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「まず、世界恐慌対策について伺います」
議場は静まり返ったままだ。
「現在、共和国では工場の操業停止が相次ぎ、失業者は増え続けています」
「私はこれまで公共事業、金融機関支援、技術者保護、国家備蓄など、幾つもの法案を提出してきました。しかし、その全てが却下されました」
与党席が少しざわつく。
ベレは視線を首相へ向けた。
「政府は、この危機をどのように乗り越えるお考えでしょうか?」
首相が立ち上がる。
「現在、政府でも検討を進めております」
ベレは静かに続ける。
「検討ではありません。国民は今日も仕事を失っています。必要なのは、今、動くことです」
議場からどよめきが起こる。
与党議員も思わず顔を見合わせた。
ベレは資料を一枚取り出す。
「そして、二つ目です。ルー地方について伺います」
空気が一変した。
誰もが息をのむ。
「ルー地方は共和国の心臓部です。石炭、鉄鋼、工業地帯、鉄道の要衝。これらを失ったまま、共和国の再建はあり得ません」
首相を真っ直ぐ見つめる。
「政府は、ルー地方奪還について、どのような外交方針をお持ちですか?」
首相は言葉に詰まる。
しばらく沈黙が流れた。
ようやく答える。
「現在、慎重に協議を……」
ベレは首を横に振る。
「慎重という言葉を聞き続けて、何年経ったでしょうか?慎重にしている間にも共和国は弱っていきます」
議場は静まり返っていた。
与党議員の中にも、視線を落とす者がいる。
ベレは最後に国会全体を見渡した。
「私達シュタール労働者党は批判するために、この場へ立っているのではありません。共和国を立て直すために立っています。必要であれば協力します。しかし、間違っていることには反対します。それが野党第一党の責任です」
そう言って一礼した。
数秒間、議場は静寂に包まれた。
やがて傍聴席から、小さな拍手が聞こえた。
議長が慌てて木槌を鳴らす。
「静粛に!」
しかし、その拍手は次第に広がっていく。
新聞記者達は一斉にペンを走らせた。
ウス・ライも静かに手帳を閉じる。
「今日からだな」
編集長が尋ねる。
「何がです?」
ウス・ライは笑った。
「共和国の政治が、本当に変わり始めるのは」
その日の夕刊の一面には、大きく見出しが躍った。
『野党第一党・ベレ党首、初代表質問』
『「検討ではなく、今動くことです」議場騒然』
そして、その演説は国民の間でも大きな反響を呼び、ベレは「野党第一党の党首」として、名実ともに共和国を代表する政治家の一人となった。




