共和国再建を、この一票から
総選挙が公示された。選挙期間は二週間。
共和国中で、新たな国の行方を決める選挙戦が始まった。
シュタール労働者党本部。
大会議室には十人の議員が集まっていた。
ベレは、一冊の分厚い冊子を机へ置く。
表紙には大きく書かれている。
『共和国再建計画』
部屋が静まり返る。
ベレはゆっくりと口を開いた。
「皆さん。これが私達、シュタール労働者党の公約です」
ページをめくる。
第一 世界恐慌対策
・公共事業による雇用創出
・金融機関への支援
・国家備蓄制度
第二 工業改革
・工業学校の拡大
・技術者保護制度
・共和国製ブランドの育成
第三 農業改革
・農業機械の普及
・農家への支援
・食料自給率の向上
第四 交通・物流改革
・鉄道整備
・港湾整備
・道路改修
第五 教育改革
・技術教育の充実
・給食制度の導入
・奨学金制度
第六 政治改革
・政治資金の透明化
・汚職防止法
・情報公開制度
第七 外交・安全保障
・ルー地方奪還
・国際協調
・共和国の主権回復
ルマルが静かに頷く。
「これまで積み重ねてきた政策が、一つになりましたね」
ベレは微笑む。
「全部、現場で見て、聞いて、考えてきたことよ。思いつきじゃないわ」
そして、もう一冊の資料を机へ置いた。
「もう一つ、発表があります」
ラインが表紙を見る。
『総選挙候補者一覧』
ページを開いた瞬間、思わず息をのむ。
「百二十名……」
ルマルも驚いた。
「こんなに擁立するのですか?」
ベレは頷く。
「はい。今回は全国百二十名の新人候補を擁立します」
会議室がざわついた。
ヘルムは思わず笑う。
「思い切ったな」
ベレは候補者名簿を見つめる。
「教師、農家、町工場の社長、技術者、医師、商人、元軍人、女性活動家、現場を知る人達ばかりです。私は政治家を増やしたいんじゃありません。現場を知る人を議会へ送りたいんです」
ラインが嬉しそうに笑う。
「各地方支部から集めた人材ですね」
「ええ。そして全員に約束してもらいました」
ベレは候補者全員へ向けて言う。
「当選しても現場へ行くこと、机だけで政治をしないこと、国民の声を忘れないこと」
百二十名が一斉に立ち上がる。
「はい!」
ベレは静かに微笑んだ。
「それでは行きましょう!共和国を変えに」
それから二週間。
百二十名の候補者は共和国中へ散っていった。
北部では農業改革を。
工業都市では雇用対策を。
港町では物流改革を。
地方都市では教育改革を。
そしてベレ自身も、一日に何度も街頭へ立った。
「世界恐慌は必ず乗り越えられます。共和国は立ち直れます。私達は選挙の時だけ現れる政党ではありません。困っている時こそ、皆さんのそばにいます」
派手な演説ではなかった。
工場へ足を運び。農家と畑を歩き。
港で荷物を運ぶ人達の話を聞き。
工業学校では生徒達と昼食を共にした。
その姿を見た人々は口々に言う。
「あの子は選挙だから来たんじゃない。いつも現場にいる。だから信用できる」
一方、与党は苦しい戦いだった。
恐慌対応の遅れ。相次ぐ汚職。続く不祥事。
街頭演説では厳しい声が飛んだ。
「今さら遅い!」
「もっと早く動いてくれ!」
そして投票日。
共和国中で投票が終わる。
夜。
シュタール労働者党本部。
全員がラジオを囲んでいた。
「開票速報です!シュタール労働者党候補」
「当選確実!」
ラインが思わず立ち上がる。
「一議席目です!」
放送は止まらない。
「当選確実!」
「また一議席!」
「さらに当選!」
ルマルは黒板へ数字を書き続ける。
二十。
三十五。
五十二。
七十四。
九十。
ヘルムが帽子を脱いだ。
「百が見えてきたぞ」
夜明け前。
ついに最終結果が発表された。
与党 百二十六議席。
シュタール労働者党 百一議席。
その他政党 七十三議席。
静まり返る本部。誰も言葉が出ない。
ラインの目から涙がこぼれた。
「野党第一党です……」
ルマルも目を潤ませる。
「十議席から始まった党が……ここまで来ました」
ヘルムは静かに笑った。
「共和国の歴史が変わったな」
全員の視線がベレへ向く。
ベレは結果表を見つめ、ゆっくりと顔を上げた。
「皆さん。ありがとうございます」
深く頭を下げる。
「でも、これはゴールではありません」
部屋は静まり返る。
「百一議席では、まだ共和国は変えられません。それでも百一人の議員には、共和国中の期待が託されています。私達は、これからも現場へ行きます」
「工場へ」
「農村へ」
「学校へ」
「港へ」
「そして国民の声を聞き続けます。それが、シュタール労働者党です」
大きな拍手が部屋を包んだ。
十議席から始まった小さな政党。
九二二年 冬 野党第一党。
百二十名を擁立し、そのうち百一名が当選。共和国最大の野党、野党第一党へと躍進した。
共和国は今、新しい時代の扉を開こうとしていた。




