希望の卒業式
世界恐慌の影響は、まだ共和国全土へ広がっていた。
工場は減産。
失業者も増え続けている。
そんな中、一つだけ明るい話題があった。
工業学校。
今日は記念すべき第一期生の卒業式だった。
講堂には卒業生と家族、協力企業の代表者、そして町工場の職人たちが集まっている。
ベレは壇上から、生徒たちを見渡した。
「皆さん。卒業、おめでとうございます」
温かい拍手が響く。
ベレは続ける。
「皆さんは、この学校の第一期生です。これから共和国の未来を支える技術者になってください」
卒業証書を受け取った青年が、一歩前へ出た。
「ベレ議員。私は、父が残した町工場を再建します」
会場が静まり返る。
青年は力強く続けた。
「恐慌で工場は閉まりました。でも、技術だけは残っています」
「この学校で学んだ知識を生かして、もう一度工場を動かします」
大きな拍手が沸き起こった。
見学者も笑顔で話す。
「私は農業機械を作ります」
「もっと多くの農家を助けたいです」
さらに別の生徒が続く。
「私は造船所へ行きます」
「共和国製の船を世界へ送り出したいです」
ベレは目を潤ませながら微笑んだ。
「ありがとう!皆さんが、この国の希望です」
式が終わると、卒業生たちはそれぞれの夢へ向かって歩き始めた。
ヘルムはその姿を見ながら呟く。
「技術は残ったな」
ルマルも静かに頷く。
「学校を作って、本当に良かったですね」
ベレは卒業生たちの背中を見つめながら、小さく答えた。
「ええ。未来は、人が作るものだから」
翌朝。
希望に満ちた卒業式とは対照的に、新聞各紙は衝撃的な記事を掲載していた。
『交通省でキックバック疑惑 道路工事業者から不正な利益供与か』
『高級ワインなど過剰接待の実態 関係者への聞き取り開始』
さらに、その隣には大きな見出しが並ぶ。
『副首相、何者かに襲われ重体』
『現場から大量の現金を発見 一体何の資金なのか』
街では人々が新聞を片手に話し合っていた。
「また政治家か……」
「道路工事まで金儲けに使ってたのか」
別の男が首を振る。
「副首相の事件も何なんだ」
「現場から大金が見つかったって、本当に訳が分からねぇ」
市場でも酒場でも、その話題でもちきりだった。
一方、党本部ではベレが新聞を静かに閉じる。
「今日は卒業生たちの門出を祝う日だったのに……」
ヘルムは腕を組んだ。
「希望と腐敗は、今の共和国に同時に存在してる」
ベレは窓の外を見つめる。
工業学校から巣立った若者たち。
そして新聞を埋める政治不信の記事。
「だからこそ。次の世代には、胸を張れる共和国を残さなきゃ」
そう呟いたベレの視線の先では、新しい技術者たちが、それぞれの未来へ向かって歩き始めていた。




