影の経済対策
世界恐慌は、なおも共和国を苦しめていた。
政府への提案は、ことごとく却下。
それでもベレは、立ち止まらなかった。
党本部。
大会議室には十人の議員が集まっていた。
机の上には全国から届いた陳情書が山積みになっている。
「仕事がありません」
「工場が止まりました」
「職人が辞めてしまいます」
「農作物の売り先がありません」
一枚ずつ目を通しながら、ベレは静かに口を開く。
「政府が動かないなら……」
全員が顔を上げる。
「私達が動きましょう」
ヘルムが笑う。
「やっぱり、その結論か」
ベレは黒板へ次々と書き始めた。
倒産企業同士を紹介する。
仕事が余っている会社へ職人を紹介する。
農家と町工場を直接つなぐ。
商工会議所と連携する。
「国には動かせなくても、人と人なら私達でもつなげられる」
ルマルも頷く。
「お金はなくても、知恵は使えます」
農業会社出身の議員が手を挙げた。
「農家には修理できずに放置された農機具があります」
「町工場なら直せます」
ベレは笑顔になる。
「決まりね。農家を紹介しましょう」
別の議員も続ける。
「港の倉庫で荷物の整理を手伝う人手が足りません」
ヘルムがすぐに答える。
「休業した工場の職人を紹介できる。力仕事なら慣れてる」
ラインも資料を見ながら話す。
「商工会議所も協力すると返事が来ています。各企業の求人情報をまとめてくれるそうです」
ベレは大きく頷いた。
「ありがとう!これで少しずつ仕事を回せるわ」
その日から党本部は、大忙しになった。
「町工場はこちらです。農家さんは明日来られます。職人さんは三名紹介できます」
電話←高かったのでやっと最近引けた。
手紙。
面談。
党本部は、まるで職業紹介所のようになっていた。
数日後。
以前倒産した町工場の社長が再び党本部を訪れた。
「ベレ議員。紹介してもらった仕事で、また機械を触れるようになりました。小さな仕事ですが、本当に助かりました」
ベレは心から微笑んだ。
「良かった。技術を失わなくて済みましたね」
社長も深く頭を下げる。
「ありがとうございます。また会社を立ち上げられるよう頑張ります」
その様子を少し離れた場所から見ていたウス・ライは、手帳へ書き込んだ。
「政府は制度を作る。だが、今動いているのは一つの政党だった」
編集長が尋ねる。
「記事にしますか?」
ウス・ライは静かに頷く。
「もちろんだ」
翌朝。
新聞には大きく書かれていた。
『政府動かず、シュタール労働者が独自の雇用支援開始』
記事の最後には、こんな一文が添えられていた。
『政治とは、法案を通すことだけではない。困っている人を今日助けることもまた、政治である』
その記事を読んだ人々は、小さく頷いた。
「確かにそうだ」
「政府が動かないなら、動く人がやればいい」
ベレは窓の外を眺めながら、小さく呟いた。
「できることは限られている。でも、何もしないより、ずっといい」
世界恐慌は終わっていない。
それでも共和国では、小さな希望が、一つまた一つと静かにつながり始めていた。




