金融機関対策法案
世界恐慌は、工場だけではなかった。
銀行もまた、不安の渦へ飲み込まれ始めていた。
党本部。ベレは新しい法案を机へ広げる。
表紙には大きく書かれていた。
『金融機関対策法案』
ルマルが資料を読み始める。
「政府による金融機関への緊急融資……」
ヘルムも頷く。
「銀行を先に助けるって訳か」
ベレは黒板へ図を書いた。
銀行が潰れる。
↓
企業へお金を貸せない。
↓
会社が倒産する。
↓
失業者が増える。
↓
景気がさらに悪くなる。
私は振り返る。
「まず銀行を救わないと駄目!銀行が潰れたら、誰がお金を貸すの?企業も農家も商店も、全部止まってしまう」
ルマルも頷く。
「金融は経済の血液です!血液が止まれば、国も止まります」
ベレはさらに一枚の資料を取り出した。
「それと、もう一つ」
全員が資料を見る。
『連合国への賠償金支払い 一時停止または延期要請』
ラインが驚く。
「賠償金ですか?」
ベレは静かに頷く。
「今の共和国には、お金が必要!国内を立て直さないといけない!だから連合国へお願いする!支払いを一時止めるか、延期できないか交渉してほしい」
ヘルムは腕を組む。
「外交も絡むな?でも、言わなきゃ始まらねぇ」
数日後。
二つの提案は政府へ提出された。
しかし返ってきた答えは、冷たかった。
金融機関対策法案。
『財政負担が大きいため却下』
賠償金延期要請は、返答すらなかった。
完全な黙殺だった。
党本部。
ベレは二通の書類を静かに机へ置いた。
「……融資も却下」
「賠償金の件は……」
ルマルが苦い表情で答える。
「返事すらありません」
部屋が静まり返る。
ヘルムは深くため息をついた。
「内側には強気か。だが、外には何も言えねぇ」
ベレは窓の外を見つめながら、小さく呟く。
「今は頭を下げる時でしょうに……」
翌朝。
ウス・ライの記事が新聞の一面を飾った。
『金融機関対策法案 政府却下』
その横には、もう一つの記事。
『賠償金延期要請 政府回答なし』
社説には、こう書かれていた。
「ヴィーダーベレ議員は、銀行への政府融資を提案した。金融機関を守り、企業への融資を止めないためである」
「しかし政府は却下した。さらに、連合国への賠償金支払いについて、一時停止または延期の交渉を求めた提案に対しては、回答すら行われなかった」
ウス・ライはペンを置き、小さく呟く。
「内側には強気。外側には何も言えない」
「これで本当に共和国を守れるのか?」
編集長は静かに記事を読み終えた。
「厳しい内容ですね」
ウス・ライは苦笑した。
「厳しいんじゃねぇ。現実を書いただけだ」
翌朝、その新聞は共和国中へ配られた。
銀行員は黙って記事を読み、工場主は深いため息をつき、商店主は新聞を静かに折り畳む。
国民の間では、少しずつ同じ言葉がささやかれ始めていた。
「今、本当に動いているのは政府なのか?」
「それとも、あの若い議員なのか?」




