共和国技術者保護計画
公共事業計画が却下されてから数日後。
党本部。
ベレは一冊の資料を机へ置いた。
表紙には、新しい題名が書かれている。
『共和国技術者保護計画』
ルマルが資料を開く。
「これは……」
ベレは静かに説明を始めた。
「恐慌で会社は倒産してもいいとは思わない。でも、一番失っちゃいけないのは技術者よ」
ヘルムが腕を組む。
「技術は一日じゃ身に付かねぇからな」
ベレは黒板へ図を書いた。
会社が倒産する。
↓
技術者が仕事を失う。
↓
生活のために別の仕事へ就く。
↓
技術が失われる。
「これが一番怖いの」
会議室は静まり返る。
ベレは続ける。
「だから、仕事を失った技術者には工業学校で教えてもらう!国営工場で試作品を作ってもらう!新しい技術を研究してもらう!景気が戻ったら、また民間企業へ戻ればいい」
農業会社出身の議員も頷いた。
「技術だけは残せますね」
ベレは笑顔で答える。
「そう!技術者を失ってはいけない!次の世代へ残さなきゃ」
ルマルは資料を閉じた。
「素晴らしい計画です!将来への投資ですね」
数日後。
その計画書は政府へ提出された。
しかし――返ってきた回答は、今回も冷たかった。
『財源不足および制度整備に時間を要するため、現時点では採用を見送る』
却下。
ベレはその紙を静かに机へ置いた。
「また……却下」
ラインは悔しそうに唇を噛む。
「どうしてですか……未来への投資なのに」
ヘルムは苦笑する。
「今しか見えてねぇんだろ。十年後を見る余裕がねぇ」
ベレは静かに窓の外を見つめた。
「会社はまた作れる。工場も建て直せる。でも……人を育てるには何年も掛かるのに」
その翌日。
ウス・ライの記事が新聞へ掲載された。
見出しは大きく書かれていた。
『共和国技術者保護計画 政府が却下』
記事にはこう記されていた。
「ヴィーダーベレ議員は、倒産した企業の技術者を工業学校や国営工場へ受け入れ、技術を次世代へ継承する計画を政府へ提出した」
「しかし政府は財源不足を理由に採用を見送った」
ウス・ライは社説で続ける。
「会社は倒産しても再び作れる。工場も建て直せる。だが、一人前の技術者を育てるには何年もの歳月が必要だ」
「その技術を失えば、共和国は未来まで失うことになる。この計画は失業対策ではない。共和国の未来を守るための計画書だった。」
記事を読み終えた編集長が静かに言う。
「惜しいですね」
ウス・ライは窓の外を眺めながら答えた。
「歴史ってのはな。後になってから、『あの時やっておけば良かった』って話ばかりなんだ」
翌朝。
その記事は共和国中へ広がった。
工場で働く職人たち。工業学校の生徒たち。
町工場の経営者たち。誰もが同じ言葉に目を止める。
「技術者を失ってはいけない」
その言葉は、静かに、しかし確実に人々の心へ刻まれていった。




