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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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208/210

却下された公共事業

世界恐慌が始まって数日後。

ベレは党本部で、一枚の分厚い書類を机へ置いた。

表紙には大きく書かれている。


『共和国緊急公共事業計画』


ルマルが資料をめくる。


「道路整備……」


「河川改修……」


「鉄道補修……」


「港湾整備……」


ヘルムも頷いた。


「失業者を雇って公共事業を進める訳か」


ベレは黒板へ図を書き始める。


「仕事が無い」

「収入が無い」

「買い物が減る」

「さらに工場が止まる」


「この流れを止めないといけないの」


チョークを動かす。


「だから政府が仕事を作る。失業した職人さんや労働者を雇う。給料を払う。そのお金が町で使われる。すると商店も工場も少しずつ動き出す」


農業会社出身の議員も頷く。


「道路も良くなりますね。港も使いやすくなる」


ベレは笑顔で答える。


「そう。今必要なのは、お金を配ることじゃない。仕事を作ること。働いて、お金を稼いで、町で使う。その流れを止めちゃ駄目なの」


全員が静かに頷いた。


数日後。

その計画書は政府へ提出された。

しかし――返事は、たった一枚だった。


『財政負担が大きいため、現時点では実施を見送る。』


ベレはその紙を静かに机へ置いた。


「……却下」


誰も言葉が出なかった。

ルマルが悔しそうに呟く。


「せめて審議くらいは……」


ヘルムは鼻で笑う。


「予想どおりだ。恐慌の真っ最中に、金を使いたくねぇんだろ」


ベレは窓の外を見つめる。


「今使わなかったら……もっと大きなお金が必要になるのに」


静かな声だった。


その翌日。

ウス・ライは新聞の原稿を書いていた。

記事の見出しは大きく載る。


『シュタール労働者党、公共事業計画を提案 政府は財政難を理由に却下』


記事にはこう書かれていた。


「ヴィーダーベレ議員は、失業者対策として道路整備、河川改修、鉄道補修、港湾整備などを柱とする公共事業計画を提出した」


「政府は財政負担を理由に却下したが、この計画は単なる土木工事ではない。仕事を失った者へ働く場を与え、その賃金が市場へ流れ、景気を支えるという発想である。」


ウス・ライはペンを止め、小さく笑った。


「また先を見てやがる」


編集長が記事を読む。


「どう思います?」


ウス・ライは窓の外を見つめながら答えた。


「恐慌で一番怖いのは、金が無くなることじゃねぇ。仕事が無くなることだ。仕事が無けりゃ、人は飯も買えねぇ。店も潰れる。工場も止まる。だから、あのお嬢ちゃんは仕事を作ろうとしてる」


編集長は静かに頷いた。


「もし採用されていたら?」


ウス・ライは肩をすくめた。


「結果は誰にも分からねぇ。だが、一つだけ言える。何もしないよりは、ずっと前を向いた政策だった」


翌朝。

その新聞は共和国中へ配られた。

国民の間では、


「仕事を作るって発想は良いな」


「道路も直るし、一石二鳥じゃないか」


「何で却下したんだ?」


という声が少しずつ広がり始めていた。

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