国民への街頭演説
世界恐慌の影響は日に日に広がっていた。
工場は減産。商店は客足が減り。
銀行には不安そうな表情の人々が並ぶ。
そんな中、ベレは党本部の前へ立っていた。
簡素な演壇。派手な飾りは何もない。
ラインが尋ねる。
「お嬢様、本当に街頭演説を?」
ベレは静かに頷いた。
「こんな時だからこそよ!国民の前で話さなきゃ」
演壇へ立つ。
少しずつ人が集まり始めた。
「あれ?」
「ベレ議員じゃないか」
「また選挙か?」
通り掛かった男が首を傾げる。
「いや、違うぞ」
「選挙はまだ先だ」
「なのに街頭演説?」
別の男が笑う。
「やっぱ変わってるな、あのお嬢ちゃん」
すると年配の男性が腕を組んで言った。
「いやいや。選挙の時だけ頭を下げる議員より、信用できるじゃねぇか」
「確かにな」
人はさらに集まっていく。
ベレは静かに演壇へ立った。
「皆さん」
ざわめきが止まる。
「今、共和国は大変な時を迎えています」
「仕事を失った方、将来が不安な方、たくさんいると思います」
静かな口調で、一人ひとりの顔を見ながら話す。
「でも慌ててはいけません。不安だからといって、皆が同じ方向へ走れば、もっと混乱します。今こそ皆で支え合いましょう」
広場は静まり返っていた。
「仕事がある人は仕事を守る。商人は商人として、農家は農家として、職人は職人として、自分にできることを続けてください!共和国は、そんな皆さん一人ひとりに支えられています」
しばらく間を置き、ベレは力強く続けた。
「そして、もう一つ。私は、今の状況を見て決意しました!一部講和を破棄し、ルー地方を取り戻します」
その瞬間、広場がどよめいた。
「ルー地方を……?」
「本気か?」
ベレは真っ直ぐ前を見据える。
「ルー地方は共和国の心臓部です。石炭、鉄鋼、工場、鉄道。あの地を失ったままでは、共和国の未来はありません。私は武力だけを望んでいるのではありません!」
「外交も!経済も!必要なら、あらゆる手段を使って取り戻す努力をします!しかし、諦めることだけはしません」
広場は静まり返っていた。
やがて、一人の男性が拳を握る。
「そうだ!ルー地方は俺たちの土地だ!」
別の男も叫ぶ。
「今の軟弱政府じゃ何も言えねぇ!」
「あんな重要な土地を取られて終わりか!」
年配の女性も頷く。
「ようやく言ってくれる政治家が現れた」
最初に「また選挙か」と言っていた男性が苦笑した。
「やっぱり変わってるな」
隣の男も笑う。
「でも、選挙の時だけ話す議員より、ずっと信用できる」
「確かにな」
拍手が一人、また一人と広がっていく。
やがて広場全体が拍手に包まれた。
少し離れた場所から、その様子を見ていたウス・ライが手帳へ書き込む。
「酒場では感情で人を動かした。今は言葉で人を支えている」
帽子を深くかぶり直し、小さく笑う。
「政治家ってのは、こうやって育っていくのかもしれねぇな」
ベレは最後に深く頭を下げた。
「共和国は、必ず立ち直ります!私は、そのために最後まで皆さんと一緒に歩きます」
その言葉に、広場から大きな拍手が湧き上がった。




