停戦の終わり
国境へ向かう車列は、ゆっくりと荒れた道を進んでいた。
舗装はところどころ剥がれ、砲弾でできた穴がそのまま残っている。
道路脇には焼け焦げた戦車。
崩れた家屋。人の気配を失った村。
停戦が結ばれても、戦争が残した傷跡は一日や二日では消えない。
車内は静かだった。誰も口を開かない。
皆、現場を知っている。
停戦が発効したからといって、安全が保証されるわけではないことを。
「あと十分で避難民の集結地点だ」
運転席の無線が鳴る。
「了解」
私は窓の外を見つめた。
やがて、広場が見えてくる。
大型トラックが何台も並び、その周囲には数百人の避難民が集まっていた。
老人。母親。幼い子ども。
抱えきれない荷物を胸に抱き、不安そうな表情で順番を待っている。
その姿を見るたびに思う。
戦争は兵士だけが戦うものではない。
最も多くを失うのは、何の罪もない民間人だ。
車を降りる。
「国際機関の監視団だ」
兵士が敬礼し、道を開けた。
私は現場責任者と握手を交わす。
「状況は?」
「今のところ問題ない。予定通り移送を開始する」
私は周囲を見回す。
空気が重い。静かすぎる。
鳥の鳴き声すら聞こえない。
胸騒ぎがした。
「偵察は?」
「済んでいる。敵影なし」
その言葉に安心できなかった。
経験が告げている。静かな時ほど危ない。
私は避難民の列へ歩み寄る。
泣き続ける幼い少女を母親が抱きしめていた。
「怖いよ……」
「もう大丈夫」
母親はそう言うが、その声は震えていた。
私はしゃがみ込み、少女に微笑む。
「もうすぐ安全な場所へ行ける」
少女は涙を浮かべたまま、小さく頷いた。
その瞬間だった。
乾いた破裂音が響く。
一発。続いて二発。
そして――
「砲撃!」
誰かが叫ぶ。
次の瞬間、地面が爆発した。
轟音。爆風。土煙。悲鳴。
停戦は破られた。
私は反射的に少女を抱き寄せる。
「伏せろ!」
二発目。三発目。
砲弾が次々と着弾する。
逃げ惑う人々。泣き叫ぶ子ども。
兵士たちは避難民を庇いながら応戦を始めた。
「なんで……!」
停戦したはずだ。
数時間前、互いに署名したばかりだった。
なのに。どうして。
無線から怒号が飛ぶ。
「敵軍が前進!」
「協定違反だ!」
「応戦しろ!」
その声を聞いた瞬間、私は理解した。
終わった。また始まる。
また、同じことの繰り返しだ。
目の前の少女が震えている。
私はその小さな身体を覆いかぶさるように抱き締めた。
直後、耳をつんざく爆音。
世界が白く染まった。




