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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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最後の停戦

「停戦協定は、本日十七時をもって発効します」


静まり返っていた会議場に、拍手が広がった。


長机を挟んで向かい合っていた両国の代表者が立ち上がり、固く握手を交わす。


何十台ものカメラが一斉にシャッターを切り、白い閃光が会場を照らした。

世界中のニュースは、間もなくこう報じるだろう。


――停戦成立。

――戦争終結。


だが、その言葉を素直に信じられる者は、この会場に何人いるだろうか。

私は静かに席を立ち、机の上の書類を閉じた。


「終わったな」


隣に座っていた同僚が、小さく息を吐く。


「……ああ」


短く返す。

それ以上の言葉は出なかった。


二十年以上。


私は国際機関の外交官として、世界中の紛争地域を渡り歩いてきた。


停戦交渉。人道支援。捕虜交換。

避難民の保護。


それが私の仕事だった。


何度も交渉をまとめた。

何度も握手を見届けた。

そのたびに、人々は歓声を上げた。

だが、その歓声が長く続いたことは、一度としてなかった。


一週間後。一か月後。半年後。


「相手が協定を破った」


「先に撃ったのは向こうだ」


そんな非難の応酬が始まり、やがて砲声が戻る。戦争を始めるのは簡単だ。

だが、止めることは、その何十倍も難しい。

それが、私が二十年かけて学んだ現実だった。

会議場を出ると、長い廊下では各国代表が報道陣に囲まれていた。


「今回の停戦は恒久和平への第一歩ですか」


「再び戦闘が起きる可能性は」


質問が飛び交う。


代表者たちは笑顔で答える。

私はその横を通り過ぎた。

記者の問いに答える役目ではない。

私の仕事は、これからだった。

出口で同僚が待っていた。


「現地監視団から連絡だ。避難民の移送を予定通り開始する」


私は頷く。


「分かった」


「本当に行くのか」


「当然よ」


「停戦は成立した。でも、安全とは限らない」


私は足を止めた。

窓の外には、灰色の空が広がっている。


「だから行く。停戦は紙に書けば終わる。でも、人が助かるのは、その後。」


同僚は何も言わなかった。

ただ、小さく肩をすくめる。


「相変わらずだな」


私は苦笑する。


「昔から変わらない」


建物の外では、白い車両が列を作って待機していた。


車体には国際機関の紋章。

青い旗が風に揺れている。

遠くでヘリコプターの音が響いた。

私は後部座席に乗り込み、車が静かに走り始める。


窓の外には、焼け落ちた建物。

砲弾で崩れた橋。瓦礫の間を歩く親子。


学校へ行くはずだった子どもたちは、水を運び。働くはずだった大人たちは、廃墟を片付けている。


戦争は、人だけではなく未来も壊していく。


私は目を閉じた。戦争を止めたい。

誰よりも、そう願っている。

だから私は外交官になった。

話し合えば、分かり合えると信じていた。


いや、今でも信じている。


それでも心のどこかで、別の声が聞こえる。


――本当に、話し合いだけで平和は守れるのか。


その答えを、私はまだ知らない。


この数時間後、自分の人生が終わることも。

そして、もう一度人生をやり直す機会を得ることも、まだ知らなかった。

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