世界市場
中央銀行を視察した数日後。
党本部。会議室の机いっぱいに、世界地図と各国の資料が広げられていた。
私は腕を組みながら考え込む。
「輸出は始まった。でも、ただ売ればいいわけじゃないのよね」
ヘルムが頷く。
「その通りだ。国によって必要な物は違う」
ルマルが資料を一枚手渡す。
「こちらは各国の人口です」
「こちらは工業化の進み具合」
「こちらは主要産業になります」
私は資料を見ながら目を丸くした。
「こんなに違うの?」
ルマルは静かに説明する。
「工業国なら、高性能な製品が求められます」
「農業国なら、農業機械の需要があるでしょう」
「暑い国と寒い国でも売れる物は変わります」
私は地図の前へ立った。
「つまり……全部の国へ同じ物を売るんじゃない。国ごとに必要な物を考えるってことね」
「その通りです」
私は黒板へ国名を書き始める。
メリカ国
・家庭用トースター
・扇風機
・掃除機
ギリス国
・高品質な工業製品
・部品
・工具
その他農業国
・トラクター
・農具
・灌漑設備
ヘルムが感心したように笑う。
「面白ぇ考え方だな」
私は振り返る。
「商売も政治も同じよ。相手が何を必要としているか知らなきゃ始まらない」
農業会社出身の議員も頷いた。
「農業機械は海外でも売れそうですね」
私は笑顔になる。
「ええ。でも焦らない。まずは共和国製は壊れにくい。品質が良い。そう思ってもらうことが先」
ルマルも資料を閉じながら微笑む。
「ブランドですね」
私は頷く。
「そう。安いから買うじゃない。共和国製だから買いたい。それを目指しましょう」
その時、ラインが一通の手紙を持って入ってきた。
「お嬢様。海外の商社からです」
私は封を開ける。
中には注文書と、一枚の手紙が入っていた。
『共和国製品は品質が良い。今後も継続して取引を希望する』
私は思わず微笑んだ。
「少しずつだけど……信用が積み重なってる」
ヘルムは窓の外を眺めながら呟く。
「ブランドってのは、一日じゃ出来ねぇ。何年も積み重ねて作るもんだ」
私は力強く頷いた。
「だからこそ、一つ一つ丁寧に作る。共和国製の名前を、世界中へ広げましょう」
会議が終わる頃には、黒板いっぱいに各国の特徴と輸出候補の商品が書き込まれていた。
共和国は、ただ物を作る国ではない。
世界を知り、世界が求める物を届ける国へ。
その新たな挑戦が、この日、静かに始まった。




