中央銀行
世界地図を見た数日後。
私はルマルの執務室を訪ねていた。
「ルマルさん。お願いがあります」
ルマルは書類から顔を上げる。
「珍しいですね。どうしました?」
私は少し照れながら笑う。
「一緒に中央銀行へ来てください」
ルマルは一瞬驚いた。
「中央銀行ですか?」
私は頷く。
「通貨とか、銀行とか、景気とか、勉強したいの」
少し間を置いて苦笑した。
「でも……細かい説明を聞いても、私に理解できるかどうか……」
ルマルは思わず笑ってしまう。
「そこまで正直に言われると困りますね。ですが、一緒に行きましょう」
私はほっと胸をなで下ろした。
「お願いします」
数日後。
共和国中央銀行。
重厚な建物を見上げながら、私は感心していた。
「ここが、お金を管理する場所……」
応接室では総裁が二人を迎えてくれた。
「ようこそ。ヴィーダーベレ議員」
私は頭を下げる。
「本日は勉強させてください」
総裁は微笑んだ。
「何でもお答えします」
机の上には共和国のお金や統計資料が並べられた。総裁が説明を始める。
「銀行は、お金を預かるだけではありません。企業へ融資し、工場を建て、商売を支える役割があります」
私は真剣に聞いていた。
「なるほど……」
総裁は続ける。
「景気が良い時は投資が増えます。悪くなると、お金を使わなくなります。その流れを調整するのも、中央銀行の重要な仕事です」
私は思わず手を挙げた。
「質問です。工場が増えれば、国は豊かになりますよね?」
総裁は優しく笑った。
「半分正解です」
私は首を傾げる。
「半分?」
「工場だけでは豊かになりません。工場で作っても、買う人がいなければ売れません。売れなければ給料も払えません。銀行も貸せません。景気も悪くなります」
私は静かに頷いた。
「そうか……工場だけじゃ駄目なんだ」
ルマルが横で微笑む。
「国は全部つながっています。工場、銀行、農業、貿易、財政。どれか一つだけ良くしても、国全体は豊かになりません」
私は手帳へ夢中で書き込んでいく。
工場だけでは国は豊かにならない。
お金も、人も、物も流れて初めて豊かになる。
帰り道。私は大きく伸びをした。
「今日は頭を使ったわ……」
ルマルが笑う。
「理解できましたか?」
私は少し考えてから答えた。
「全部は無理。でも、一つだけ分かった。政治って、お金の流れも知らないと駄目なのね」
ルマルは満足そうに頷く。
「その気付きだけでも、大きな収穫です」
私は空を見上げながら微笑んだ。
「まだまだ勉強することが山ほどあるわ。でも、それが少し楽しくなってきた」




