世界地図
ある日の午後。
党本部。ヘルムが大きな木箱を抱えて部屋へ入ってきた。
「どっこいしょっと」
ドサッ。
机いっぱいに広げられたのは、一枚の巨大な地図だった。
「わぁ……」
ベレは思わず立ち上がる。
「これって……」
ヘルムは頷く。
「世界地図だ」
ラインも思わず見入る。
「こんなに大きいんですね」
ヘルムは地図の上を指でなぞる。
「共和国だけ見てても、国は守れねぇ。世界を見ろ。外交ってのは、ここから始まる」
そう言うと、一本の棒を持って説明を始めた。
「ここがメリカ国。世界最大級の工業国だ」
棒が海を渡る。
「ここはギリス国。海運と貿易が強い」
さらに別の国へ。
「ここはランス国とこっちがルギー国。今、共和国ともめてる連中だ」
ヘルムは赤い線を引いた。
「この航路を船が通る。ここから石炭、鉄、食料、機械、全部が世界中を動いてる」
ベレは真剣な表情で聞いていた。
「国って……本当に世界とつながってるのね」
ヘルムは頷く。
「だから外交がある。だから貿易がある。だから戦争も起きる」
私はゆっくり世界地図へ近付いた。
「ほぅ……これが、この世界か」
しばらく眺める。
そして小さく呟いた。
「いやいや……ほんと、そっくりね」
ラインが首を傾げる。
「何がです?」
私は慌てて誤魔化す。
「あ、いや……地図って面白いなって」
心の中では驚いていた。
アジアの端には日本……
南にはオーストラリア……
メリカ国は、ほとんどアメリカ大陸……
ヨーロッパも形がよく似てる……
国の呼び名まで、少し変わってるくらいだわ。
私は地図を見つめたまま考え込む。
待って……もし、この世界の歴史も似てるなら……世界史は詳しくないけど……この先……世界恐慌が来るんじゃ……?
背中に冷たいものが走る。
もし本当に来るなら……共和国は、やっと工業が動き始めたばかり。輸出も始まったここで世界中の景気が崩れたら……
私は思わず頭を抱えた。
防ぐ方法なんて……あるのかしら……
ヘルムが不思議そうに声を掛ける。
「どうした?」
私はハッと我に返る。
「ううん。ちょっと考え事」
ヘルムは笑った。
「世界を知れば、考えることも増える。それが政治家ってもんだ」
私は世界地図をもう一度見つめた。
工業。農業。教育。外交。
そして、その先にある世界経済。
「共和国だけを見ていても駄目。世界も見なきゃ」
そう呟いた私は、世界地図の端に置かれたメモ帳へ、新しく一行を書き加えた。
『世界経済について調べること』
未来はまだ誰にも分からない。
だが、その未来に備えることはできる。
ベレは、この日初めて「共和国の未来」と「世界の未来」を同時に見つめ始めたのだった。




