国が追いついた日
ある日の朝。
党本部へ一枚の新聞が届けられた。
私はコーヒーを飲みながら新聞を開く。
大きな見出しが飛び込んできた。
『政府、工業学校・農業近代化へ予算計上を検討』
私は思わず記事を読み返した。
「予算……?」
ルマルも新聞を覗き込む。
「ようやくですね」
ヘルムは新聞を奪うように手に取り、記事を読み終えると鼻で笑った。
「ほー。やっと政府が予算を付ける気になったか」
私は首を傾げる。
「良いことじゃないですか?」
ヘルムは苦笑した。
「もちろん悪くはねぇ。だが、遅すぎる」
新聞を机へ置く。
「あのお嬢ちゃんの方が、十歩も先へ行ってるんじゃねぇか?」
ルマルも静かに頷いた。
「工業学校はもう建設が始まっています。農業機械も試験運用中です。政府は、それを見てから動き出した」
私は少し照れながら笑う。
「結果的に国全体へ広がるなら、それで十分です」
ヘルムは肩をすくめた。
「相変わらず欲がねぇな」
その日の昼。
町の食堂。新聞を読んでいた市民達も驚いていた。
「え?」
「政府が予算?」
隣の男も新聞を覗き込む。
「今さらか?」
「俺は政府が最初からやってたのかと思ってたぞ」
別の客も頷く。
「違うのか?」
「工業学校って、あのお嬢ちゃん議員が企業集めて始めたんじゃなかったか?」
「農業機械もそうだろ?」
「政府じゃなくて、町工場と農家がやってたはずだ」
食堂の主人も苦笑する。
「じゃあ政府は後から乗っかったってことか?」
「そんな感じだな」
店内では苦笑混じりの声が広がる。
「でも、国が金を出すなら悪い話じゃねぇ。全国へ広げられるかもしれない。それなら歓迎だ」
その頃。政府庁舎。
担当官僚達は真剣な表情で資料を見つめていた。
「視察結果です。工業学校は企業との共同運営で順調。試作トラクターも高い成果を上げています」
一人の官僚が静かに言う。
「認めざるを得ません。成功しています」
別の官僚も頷いた。
「ならば国家事業として支援しましょう。地方にも広げるべきです」
夕方。
ウス・ライは記事を書き終え、編集長へ原稿を渡した。編集長は読み終えると笑う。
「皮肉が効いてるな」
ウス・ライは帽子を被り直しながら肩をすくめた。
「事実を書いただけさ」
原稿の最後には、こう締めくくられていた。
『政府がようやく動いた。だが、その一歩は、一人の十五歳の議員と、多くの現場の人々が歩き始めた道を追うものだった。国が動き出したことは歓迎すべきだ。しかし、その第一歩を誰が踏み出したのかを、忘れてはならない。』
翌朝。
その記事は全国へ届けられ、多くの国民は改めて気付くことになる。
工業学校も、農業改革も。
最初の一歩は、政府ではなく、一つの小さな政党と現場で汗を流した人々から始まっていたのだと。




