十人では足りない
党本部。朝。
ベレの机の上には、山のような書類が積まれていた。
地方支部からの報告書。
工業学校の建設資料。
農業機械の試験結果。
企業からの相談。
出版社との打ち合わせ。
さらに議会へ提出する法案。
私は書類の山を見つめたまま固まっていた。
「……」
ラインがお茶を置く。
「お嬢様?」
私は小さく呟いた。
「人が足りない……」
その一言で部屋が静まり返る。
ヘルムが書類を一枚持ち上げる。
「こっちは地方支部から三十件」
ルマルも苦笑しながら別の山を指差す。
「こちらは工業学校関係だけで五十件ですね」
農業担当の議員もため息をつく。
「農業機械の視察依頼も増えています」
十人の議員全員が仕事を抱えきれなくなっていた。私は両手で頭を抱える。
「現場へ行きたいのに……書類を書いているだけで一日が終わっちゃう」
ヘルムは腕を組んで笑った。
「嬉しい悲鳴だな」
ルマルも頷く。
「党が大きくなった証拠ですよ」
私は少し考え込む。
「だったら……」
勢いよく立ち上がった。
「募集しましょう!」
皆が一斉に顔を上げる。
「募集?」
私は黒板へ大きく書いた。
秘書募集
その下へさらに書き加える。
政策スタッフ募集
「議員を増やすには選挙が必要です。でも、秘書や政策スタッフなら今すぐ増やせます」
教師出身の議員が頷いた。
「資料整理ができる人も必要ですね」
商人出身の議員も続ける。
「企業との連絡役も欲しい」
医師出身の議員は笑う。
「医療分野を調べる専門スタッフもいると助かります」
私は次々と書き足していく。
・資料整理
・統計分析
・現地調査
・政策研究
・地方支部との連絡
・議会資料作成
ルマルは満足そうに頷いた。
「これでようやく組織らしくなりますね」
私は笑顔で振り返る。
「経験は問いません!大事なのは、共和国を良くしたいという気持ちです」
ヘルムがニヤリと笑う。
「給料は?」
私は少し困った顔になる。
「……できる範囲で」
部屋中から笑い声が上がった。
数日後。
募集を始めると、党本部には多くの応募が集まった。
元教師。元役人。学生。職人。会計士。
中には『我が戦い』を片手に訪れる若者もいた。
「この本を読んで、政治をやってみたいと思いました」
「現場を歩く政治がしたいです」
「私にも手伝わせてください」
その光景を見たベレは、少し目を潤ませながら微笑んだ。
「ありがとう。一緒に共和国を変えていきましょう」
党本部の扉は、その日からさらに忙しく開閉を繰り返した。
十人だけでは動かせなかった未来が、多くの仲間たちの力によって、少しずつ形になろうとしていた。




