世界は動いている
夕方。党本部の一室。
「うーん……」
ヘルムが腕を組みながら唸っていた。
机の上には何枚ものメモ。
耳には大きなヘッドホン。
目の前には無線機が置かれている。
部屋の外を通りかかったラインが、不思議そうに顔を覗かせた。
「ヘルムさん。何かありました?」
ヘルムはヘッドホンを少しずらしながら答える。
「いや……どうやらメリカ国が、かなり強い調子でランス国とルギー国を批判してるらしい」
ラインは目を丸くした。
「メリカ国が?何故です?」
ヘルムは無線機のメモを指差す。
「ルー地方占領だ。あそこは共和国の工業の心臓部だった。占領するってことは、共和国そのものを崩壊させる行為だ……と、世界へ向けて声明を出してる」
ラインは驚いた表情で新聞を手に取る。
何度読み返しても、その記事はどこにも載っていない。
「……そんな話。新聞には載ってませんよ?」
ヘルムは苦笑した。
「そこが、この国の悪いところだ。国内で、わちゃわちゃ騒いでるだけ。世界を見てねぇ。共和国は世界の中の一つの国だ。周りがどう動いているか知らなきゃ、いつか飲み込まれる」
ラインは静かに頷いた。
「確かに……外交の記事なんて、ほとんど見ませんね」
ヘルムは再びヘッドホンを耳へ当てる。
しばらく無線に耳を傾けていたが、不意に目を見開いた。
「おっ……」
ラインも身を乗り出す。
「どうしました?」
ヘルムは驚いたように呟く。
「メリカ国が……共和国への直接支援を表明した」
「えっ?」
ラインも思わず声を上げる。
「直接支援ですか?」
「ああ、食料なのか?資金なのか?工業支援なのか?まだ詳しくは分からねぇ。だが、『共和国を支援する』とはっきり言った」
部屋が静まり返る。
ラインはゆっくりと口を開く。
「政府は……知っているのでしょうか?」
ヘルムは険しい表情になる。
「それが問題だ。もし知っていて動いてねぇなら問題だし。知らねぇなら、もっと問題だ」
ラインは窓の外を見つめた。
「元敵国だったはずですよね。どうして……」
ヘルムは小さく笑った。
「だから外交は面倒なんだ。昨日の敵が今日の味方になる。逆もある。国同士ってのは、好き嫌いじゃ動かねぇ。国益で動く」
その頃。
別室ではベレが工業学校の設計図を広げていた。
「食堂は、もう少し広くした方がいいかな」
世界が大きく動き始めていることなど、まだ知らない。
ヘルムは無線機の電源を切り、小さく呟いた。
「……そろそろ。ちびっ子にも、世界を見てもらう時が来たかもしれねぇな」




