共和国製第一号
数か月後。党本部。
商工会議所の担当者が、息を切らしながら駆け込んできた。
「ベレ議員!」
私は書類から顔を上げる。
「どうしました?」
担当者は満面の笑みを浮かべる。
「完成しました!家庭用トースターです!」
私は思わず立ち上がった。
「本当に!?」
担当者は嬉しそうに頷く。
「ルー地方が占領された時は、もう無理かと思いました。部品工場も協力会社も、ほとんどルー地方にありましたから」
ルマルも静かに頷く。
「あの時は計画そのものが止まりましたね」
担当者は机に一冊の資料を広げた。
「ですが、その後、各地の小さなメーカーを回りました。町工場を探し、部品工場を探し、協力してくださる職人さんを探しました。時間は掛かりましたが、ようやく全部そろいました」
私は資料を見ながら微笑む。
「諦めなくて良かった」
担当者は完成した製品を机の上へ置いた。
銀色に輝く、小さな家庭用トースター。
私はそっと手に取る。
すると側面に、小さな刻印が入っていた。
『共和国製』
私は思わず笑顔になる。
「入れてくれたのね」
担当者は誇らしそうに頷く。
「はい。品質に責任を持つ証です。将来は海外へ輸出することも考えています」
私は静かに頷いた。
「いい考えね。安いから売れるんじゃない。共和国製だから買いたい。そんな商品を増やしましょう」
数日後。首都の電器店。
店先には新商品が並んでいた。
『家庭用トースター 本日発売』
開店前から人が並んでいる。
帽子を深くかぶった私は、その列の最後尾に並んでいた。
ラインが苦笑する。
「お嬢様。一言、言えば持ってきてもらえますよ?」
私は首を横に振る。
「だめ、普通のお客さんとして見てみたいの」
ヘルムも笑う。
「物好きだな」
前に並ぶ主婦たちの話が聞こえてくる。
「これが噂の共和国製?」
「町工場が集まって作ったんですって」
「見た目も良さそうね」
「海外でも売る予定らしいわよ」
私は黙ってその会話を聞いていた。
やがて開店。店員が元気よく声を張る。
「共和国製家庭用トースター、本日発売です!」
拍手が起こる。
私は順番を待ち、一台を手に取った。
箱には、大きく刻まれている。
『共和国製』
その文字を見つめながら、小さく微笑んだ。
「やっとここまで来たわね」
レジで会計を済ませる。
店員はもちろん、目の前のお客さんがベレ本人だとは気付いていない。
店を出ると、ラインが尋ねる。
「買えましたね」
私は大事そうに箱を抱える。
「ええ。これは、ただのトースターじゃない。共和国のみんなが作った一号機よ」
ルマルも箱を見ながら微笑んだ。
「一台の家電ですが共和国にとっては、大きな一歩ですね」
私は空を見上げる。
「次は扇風機、掃除機、冷蔵庫、少しずつ増やしていきましょう」
店の前では、次々と商品が売れていく。
その一台一台には、小さく、しかし誇らしく刻まれていた。
『共和国製』
それは、新しい共和国の技術と誇りを示す最初の印だった。




