疑心暗鬼
議事堂。
いつもなら談笑が聞こえる控室は、重苦しい空気に包まれていた。
古株議員達が机を囲み、誰一人として笑っていない。
最初に口を開いたのは、一人の年配議員だった。
「……誰が裏切った?」
誰も答えない。
別の議員が低い声で言う。
「情報が漏れている。しかも内部の人間しか知らない内容だ」
部屋の空気がさらに重くなる。
「誰だ?誰が情報を持ち出した?まさか、お前か?」
疑いの視線が互いに向けられる。
長年同じ派閥で行動してきた仲間同士が、今では互いを信用できなくなっていた。
一人の若い議員が恐る恐る口を開く。
「……あの小娘じゃないですか?」
部屋が静まり返る。
ヴィーダーベレ。
その名前が頭をよぎる。
しかし、一人の古参議員が首を横に振った。
「いや。流石にたまたまだろ」
別の議員も腕を組む。
「あの党はまだ九人だ。そこまでの組織力はない。調べる資金力もないはずだ」
さらに別の議員が続ける。
「それより怪しいのは、他の党だ。次の選挙を見据えて仕掛けてきたんじゃないか?」
「あり得るな。新人を利用して、裏で動いている連中がいるのかもしれん」
疑いは、次々と別の方向へ向かっていく。
「新聞社か?」
「警察内部か?」
「会計監査院の誰かか?」
「いや、秘書が寝返った可能性もある」
誰も確かな答えを持っていない。
だからこそ、全員が疑わしく見えてしまう。
一人の議員がため息をついた。
「こんな状態じゃ……ベレを潰すどころじゃないな」
別の議員も苦い顔をする。
「まず自分達の足元を固めないと。誰が敵で、誰が味方なのかも分からん」
こうして古株議員達は、互いを疑い始めた。
その結果、ヴィーダーベレへの攻撃は、ぴたりと止まった。
その頃、党本部。
私は工業学校の建設予定地を見ながら笑顔だった。
「やっぱり実習用の畑も必要ね」
新しく加わった農業会社出身の議員も頷く。
「農業機械は、実際に土を耕して覚えるのが一番です。それ採用!」
私は嬉しそうにメモを書き込む。
ヘルムはその様子を見ながら、小さく笑った。
「平和だな」
ルマルもコーヒーを飲みながら頷く。
「ええ」
「今は、それで十分です」
私は二人を見て首を傾げた。
「最近、本当に静かね」
ヘルムは新聞を畳みながら一言だけ答えた。
「皆、自分のことで忙しいんだろ」
私は深く考えることもなく笑った。
「それなら良かった」
その笑顔とは対照的に、議会では見えない疑心暗鬼が静かに広がり続けていた。




