ベレだけ知らない
党本部。
私は地図を広げながら、工業学校の建設予定地を眺めていた。
「ここなら鉄道も近いし……企業からの実習も受け入れやすいわね」
その横では、新しく繰り上げ当選した九人目の議員が少し緊張した様子で立っていた。
「初めまして。農業会社を経営しております」
私は笑顔で手を差し出す。
「ようこそ!これからお互いに頑張りましょう!」
農業会社の経営者も力強く握手を返した。
「よろしくお願いします!」
私は黒板へ担当を書き加える。
農業・食料政策
「現場を知る人が増えるのは心強いわ」
九人目の議員は照れくさそうに笑った。
「現場しか知りませんが、お役に立てるよう頑張ります」
私は嬉しそうに頷く。
「それで十分です!現場を知ることが一番大事なんですから」
そのまま工業学校や視察計画の話し合いが続いた。
「来週は工場、再来週は農村、その次は港町ね」
私は予定表を書き込みながら首を傾げた。
「何だか最近……議会が静かね?」
ヘルムは新聞を畳みながら答えた。
「平和が一番だ」
ルマルもコーヒーを飲みながら頷く。
「静かな時ほど仕事が進む」
私は納得したように笑う。
「それもそうね」
その頃――。
議事堂では再び騒ぎになっていた。
「聞いたか?」
「今度は不倫だ」
「相手は秘書らしい」
「写真まで出回っているぞ」
数日後。
本人は記者会見を開いた。
「このたびは私の軽率な行動により、多大なるご迷惑をお掛けしました。責任を取り、議員を辞職いたします」
議場はざわめきに包まれる。
そして、欠員となった一議席には、前回選挙で無所属として立候補し、次点だった新人議員の繰り上げ当選が決まった。
「また新人か……」
「議会の顔ぶれが変わり始めている」
古株議員たちは落ち着かない様子で顔を見合わせる。
一方その頃。
党本部では、私は工業学校の図面を前に頭を悩ませていた。
「実習棟はもう少し広くした方がいいかしら?」
ヘルムは思わず笑う。
「本当に何も知らねぇんだな」
ルマルも苦笑した。
「知らない方が幸せなこともありますよ」
私は不思議そうに二人を見る。
「何かあったの?」
二人は顔を見合わせ、同時に答えた。
「いや。平和が一番だ」
私は首を傾げながらも笑った。
「そうね。平和だからこそ、学校も作れるもの」
その笑顔の裏で、議会では静かに勢力図が変わり始めていた。




