静かな一手
その夜。
ラインは党本部の執務室で、一人資料を眺めていた。
机の上には、ウス・ライから預かった分厚い封筒。
「さて……どうするか」
一枚一枚、目を通していく。
賄賂。恐喝。不倫。裏金。
どれも古株議員達にとって致命傷になりかねない内容だった。
ラインは腕を組む。
「私なら……この情報を持って相手を脅す」
そう呟いた瞬間、自分で首を横に振る。
「うーむ……いまいちね。そんなことをすれば、私の正体がバレバレ」
少し考え、さらに別の案を思い浮かべる。
「暗殺……」
すぐに苦笑した。
「いやいや。敵対する所ばかり居なくなれば、真っ先に疑われるのはうちの党だわ」
封筒を閉じ、大きく息を吐く。
「やっぱり……ヘルムさんに渡すのが無難ね。情報の分析力は、あの人が飛び抜けてるもの」
翌日。
ラインはヘルムの執務室を訪ねた。
「ヘルムさんちょっと相談が」
ヘルムは書類から顔を上げる。
「何だ?」
ラインは封筒を机へ置いた。
「この情報を手に入れました。他にも数十名分あるそうです」
ヘルムは黙って封筒を開く。
一枚。また一枚。
資料を読み進めるごとに、口元が少しずつ緩んでいく。
「……ほぅ」
さらに一枚。
「ふふふ」
最後の一枚を見終えると、資料を静かに閉じた。
「なるほどな。まあ、普通の新聞社じゃ出せねぇな」
ラインは頷く。
「これを我が党に有利に使えて、なおかつ私達だとバレない方法が思い付きません」
ヘルムは椅子へ深く座り直し、腕を組んだ。
しばらく黙って考える。
やがてニヤリと笑った。
「……まあ、任せろ」
ラインが少し驚く。
「何か思い付いたんですか?」
「ああ。ただし、これは焦る話じゃねぇ。まずは一撃。その後は相手の出方を見る」
ラインは不思議そうな顔をする。
「一撃?」
ヘルムは意味ありげに笑った。
「全部一気に使う奴は三流だ。切り札は最後まで残しておくもんだ」
そう言うと、机の引き出しを閉めた。
「それと護衛隊を少し借りるぞ」
ラインは首を傾げる。
「……はい。それは構いませんが。何をするんです?」
ヘルムは立ち上がり、帽子を手に取った。
「安心しろ。法に触れるようなことはしねぇ。ちょっと情報を確かめるだけだ」
そう言って部屋を出ようとしたところで振り返る。
「面白くなるぞ」
ラインは苦笑する。
「その言い方、少し不安なんですけど」
ヘルムは豪快に笑った。
「政治ってのはな。真正面から殴り合うだけじゃ勝てねぇ。相手が仕掛けてきたなら、その癖を見抜いて利用する。それが駆け引きだ」
ラインは静かに頷いた。
「……なるほど」
ヘルムは扉を開けながら最後に一言だけ残した。
「まずは一撃だ。相手がどう動くか、ゆっくり見せてもらおうじゃねぇか」
その表情には、長年さまざまな修羅場をくぐり抜けてきた男だけが持つ、不敵な笑みが浮かんでいた。




