牙をむく古株
夕暮れ。新聞社の一室。
ウス・ライは机の上へ一枚のメモを投げた。
「……やっぱり動き出したか」
内容は短い。
『ヴィーダーベレ議員の身辺調査開始』
ウス・ライは苦笑する。
「そろそろ来る頃だと思ってたぜ。優秀な新人が出てくると、毎回この手だ」
帽子を被り直し、立ち上がる。
「さて……誰に話すか。あのお嬢ちゃん議員は論外だな。真正面から突っ込むだけだ」
少し考え、小さく呟く。
「やっぱりラインか?会うのは怖ぇが……」
夜。
人気のない喫茶店。
先に席へ着いていたラインは、ウス・ライを見るなり言った。
「貴方から呼び出しがあるとは思わなかったわ」
ウス・ライは苦笑する。
「俺も、あんたと二人で会うのは怖ぇよ。だが、そうも言ってられねぇ」
ラインの表情が真剣になる。
「何かあったの?」
ウス・ライは声を落とした。
「古株議員どもが、あんたの党首の粗探しを始めやがった」
ラインの目が見開く。
「……なっ!?」
「驚くな。いつものパターンだ」
ウス・ライはコーヒーを一口飲む。
「優秀な新人議員が出てくれば、まず潰そうとする。政策じゃ勝てねぇ。人気じゃ勝てねぇ。だから私生活や過去を探る。それが昔からのやり方だ」
ラインは静かに尋ねた。
「……どんな件を狙っているの?」
「そこまでは分からねぇ。だから確認だ」
ウス・ライは真っ直ぐラインを見る。
「あれの件は、ちゃんと問題は解決したのか?」
ラインは少しだけ考え、静かに頷いた。
「それなら問題ない」
ウス・ライも安心したように息を吐く。
「なら良かった」
そう言うと、足元に置いてあった分厚い封筒を机の上へ置いた。
「それと、これを見ろ」
ラインが封筒を開く。
中には何十人分もの書類が入っていた。
「これは……」
一枚目。賄賂疑惑。
二枚目。恐喝。
三枚目。不倫。
四枚目。裏金。
ラインはゆっくり顔を上げる。
「これ全部……?」
ウス・ライは頷いた。
「古株議員どものアキレス腱だ。他にも数十人分ある」
ラインは呆れたようにため息をつく。
「よく集めたわね」
「記者を長くやってりゃ、自然と集まる」
ウス・ライは苦笑した。
「だが、新聞には載せられねぇ。上がビビっちまってな。たまに、あのゴシップ野郎へ流していた。所詮はゴシップ記事扱い。政治家は少し痛がるだけで終わりだ」
ラインは資料を一枚ずつ見返す。
「……なるほど」
ウス・ライは静かに続ける。
「お嬢ちゃん議員に渡しても。あの子は真っ直ぐ過ぎる。こんなもん、使わねぇだろう。だがな。泥臭い政治ってのは、こんな世界だ。相手は何でも仕掛けてくる。綺麗事だけじゃ勝てねぇ」
ラインは資料を閉じる。
「私に、どうしろと?」
ウス・ライは肩をすくめた。
「何かあんたの権限で使えねぇかと思ってな?違法なことをしろとは言わねぇ。だが、持ってるだけでも違う」
ラインは腕を組み、静かに考え込む。
「……少し考えさせて」
ウス・ライは立ち上がり、帽子を被る。
「分かった。まだまだ資料はある」
そう言い残し、店を後にした。
一人残されたラインは、封筒を見つめながら小さく呟く。
「お嬢様なら……絶対に使わない。だからこそ、私が考えないといけないのね」
静かな喫茶店で、ラインは政治の現実の重さを改めて感じていた。




