新たな敵
『我が戦い』の重版は止まることを知らなかった。書店では売り切れが続き、出版社は昼夜を問わず印刷を続けている。
新聞各紙も、
「異例の政治書」
「十五歳議員の現場主義」
と連日のように取り上げていた。
党本部でも支持率の資料が机いっぱいに並べられている。
ラインが静かに報告した。
「お嬢様。支持率が、また上がりました」
私は苦笑する。
「本のおかげね」
ルマルは首を横へ振った。
「本だけではありません。現場を歩き続けた結果です」
私は静かに頷いた。
「まだ始まったばかりよ」
「これからが本番」
その一方。議事堂の一室。
古くから議席を守ってきた政党の幹部たちが集まっていた。
一人の議員が新聞を机へ叩きつける。
「またヴィーダーベレか!」
別の議員も険しい表情を浮かべる。
「このままでは次の選挙で我々の議席が危ない。支持が若者だけでなく地方にも広がっている」
年配の議員が腕を組む。
「まだ八人の小政党だ……だが、放っておけば必ず大きくなる」
部屋に重い空気が流れる。
一人の男が静かに口を開いた。
「調べろ!ヴィーダーベレという人間を徹底的にな」
別の議員も続ける。
「過去でも家族でも構わん」
「失点を探せ」
「何か一つでも見つかれば十分だ」
さらに別の議員が低い声で言う。
「議会でも揺さぶる。質問攻めにして失言を引き出せ。世論も利用しろ!持ち上げられた人間ほど、落ちる時は早い」
誰も反対しなかった。
もはや彼らは、ベレを「新人議員」とは見ていなかった。
「次の選挙の脅威」
そう認識し始めていた。
その頃、党本部。
私は山積みになった視察予定表を眺めていた。
「来週は北部。その次は港町ね」
ヘルムが新聞を畳みながら言う。
「有名になるってのは大変だな」
私は笑う。
「政治家なんだから、それくらいでちょうどいいわ」
ヘルムは静かに窓の外を見つめる。
「いや……そろそろ来るぞ」
私は首を傾げる。
「何がですか?」
「本当の政治だ。政策で勝てない相手は、別の方法で勝とうとする」
部屋の空気が少しだけ張り詰める。
その頃、議事堂ではすでに数人の調査員が動き始めていた。彼らの机の上には、一枚の紙。
そこには大きく一行だけ書かれていた。
『ヴィーダーベレ調査』
新たな戦いは、静かに幕を開けようとしていた。




