印税の使い道
数日後。
党本部へ出版社の編集長が慌ただしく駆け込んできた。
「ヴィーダーベレ議員!」また重版が決まりました!」
私は驚いて立ち上がる。
「またですか?」
編集長は興奮を隠せない様子だった。
「はい!初版も第二版も完売です!現在、第三版の印刷に入っています!」
ルマルが苦笑する。
「そこまで売れるとは思いませんでしたね」
編集長は一枚の書類を差し出した。
「そして、こちらが印税の明細です」
私は金額を見て、一瞬固まった。
「……こんなに?」
編集長は頷く。
「まだ増えると思います。全国の書店から注文が止まりません」
私は書類を静かに机へ置いた。
しばらく考え込む。
ヘルムが笑いながら言う。
「これだけあれば、好きな物でも買えるぞ?」
私は首を横に振った。
「いいえ。約束しましたから」
私は立ち上がり、黒板の前へ向かう。
チョークを手に取り、大きく四つの項目を書いた。
・全国視察費
・調査費
・統計収集
・専門家への謝礼
皆が黒板を見つめる。私は振り返った。
「印税は、全部ここへ使います」
部屋が静まり返る。
商人出身の議員が尋ねる。
「ご自身のためには使わないのですか?」
私は笑顔で答えた。
「私一人が豊かになっても、共和国は豊かになりません」
「だから、このお金は共和国へ返します」
ルマルは静かに頷く。
「お前らしいな」
私は地図を広げた。
共和国全土が描かれている。
「皆さんこれからは、もっと現場へ行きましょう」
一人ひとりの顔を見ながら続ける。
「現場百回とは言いません」
「でも、一度見ただけで分かった気になってはいけません。何度も足を運び、ゆっくり観察して、そこで暮らす人の話を聞くそして、その地域に合った対応策を考えましょう」
教師出身の議員が頷く。
「学校なら、学校ごとに事情も違いますね」
医師出身の議員も続ける。
「病院も同じです。都市と地方では問題が全く違う」
商人出身の議員は地図を指差した。
「私は港町を回りましょう」
元軍人も腕を組む。
「国境地域は俺が見てくる」
ルマルは笑みを浮かべる。
「経済も机の上だけでは分からない。市場や銀行も歩いてみよう」
私は満足そうに頷いた。
「そうです。机の上の数字は大切。でも、その数字の向こうには人がいます。その人達の暮らしを見なければ、本当の政策は作れません」
ヘルムは腕を組みながら笑う。
「いつの間にか、本当に政党らしくなったな」
私は少し照れながら笑った。
「まだまだ小さな政党です。でも、一歩ずつ進めばいいんです」
窓の外では夕日が町を赤く染めていた。
その光は、これから全国へ歩き出す八人の議員たちを、静かに照らしていた。




