帰る場所
釈放から翌日。
久しぶりに党本部の扉を開ける。
「ただいま」
私は懐かしい部屋を見渡した。
「やっぱり落ち着くわね」
ラインが笑顔で迎える。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
ヴィルも深く頭を下げた。
「皆、お待ちしておりました」
私は執務室へ入る。
そして、思わず足を止めた。
「……え?」
机が見えない。
椅子も半分しか見えない。
部屋中に積み上げられた封筒。
箱。書類。山、山、山。
私は呆然と立ち尽くす。
「これ……何?」
ラインが苦笑する。
「全部、お嬢様宛です」
私は一通手に取る。
『助けてください。』
次の手紙。
『ぜひ、私達の町にも来てください。』
さらに。
『工場を見てください。』
『学校を見てください。』
『病院へ来てください。』
『農村を見てください。』
まだ終わらない。
『私達の声も聞いてください。』
私は思わず苦笑した。
「全国から?」
ヴィルが頷く。
「はい」
「勾留中から毎日届き続けています」
ルマルも封筒を一つ持ち上げる。
「全部読むだけでも大変だな」
私は椅子へ座り、頭を抱えた。
「嬉しいけど……」
「一人じゃ無理ね」
その言葉を待っていたかのように、ヘルムが部屋へ入ってきた。
「だから党を作ったんだろ」
私は顔を上げる。
ヘルムは笑う。
「全部一人でやる気か?」
私は首を横へ振る。
「違うわ」
「でも、つい……」
ヘルムは机を叩く。
「全員集めろ」
しばらくして、八人の議員が会議室へ集まった。
私は手紙の山を前に立つ。
「皆さん」
「お願いがあります」
全員が静かに耳を傾ける。
私は一枚の地図を広げた。
「以前決めた役割分担をします!もう全部私がやるんじゃありません」
「皆でやるんです」
部屋が静まり返る。
やがて医師出身の議員が笑った。
「ようやく仕事らしい仕事ですね」
教師も頷く。
「学校のことなら任せてください」
商人も笑う。
「商工会議所との話なら私が行きましょう」
元軍人も胸を叩く。
「国防関係は任せろ」
ルマルは静かに微笑んだ。
「やっと政党らしくなってきましたね」
私は嬉しそうに皆を見渡した。
「一人では無理でも八人ならできる」
ヘルムが腕を組みながら頷く。
「その八人も、そのうち十六人、三十二人になる」
私は笑った。
「そうね!少しずつ仲間を増やしましょう」
机の上には、まだ数え切れないほどの手紙が積まれている。
しかし今はもう、不安はなかった。
共和国の未来を支えるのは、一人の議員ではない。同じ志を持つ仲間達だった。
その日、小さな政党は初めて、本当の意味で一つの組織として動き始めた。




