初めての弁護士
勾留生活も三週間が近づいていた。
午前中。看守が牢屋の扉を開ける。
「ヴィーダーベレ議員。面会です」
私は顔を上げる。
「面会?」
応接室へ案内されると、一人の男性が立ち上がった。
四十代ほどの落ち着いた雰囲気の男性だった。
「初めまして私は今回、あなたの弁護を担当することになりました」
私は思わず目を丸くした。
「やっとお会いできたんですね」
弁護士は苦笑した。
「ええ私も、ようやくです」
私は首を傾げる。
「どういう意味ですか?」
弁護士は椅子へ腰を下ろし、静かに話し始めた。
「実は、接見の許可がなかなか下りませんでした」
私は驚く。
「そんなことがあるんですか?」
「あります。特に世間の注目を集める事件では」
部屋が静かになる。
私は本題を切り出した。
「それで……私は起訴されるんでしょうか?」
弁護士は書類を開く。
しばらく目を通した後、首を横へ振った。
「正直に申し上げます。起訴するには証拠が弱いです」
私はほっと息を吐く。
「そうなんですね」
しかし弁護士の表情は晴れなかった。
「ですがそこが問題でもあります」
私は首を傾げる。
「問題?」
弁護士は静かに頷く。
「証拠が弱い。だから有罪にできる見込みも高くありません」
「なら釈放すればいい」
私は素直にそう思った。
しかし弁護士は苦笑した。
「法律だけなら、その通りです。ですが今回は政治も絡んでいます」
私は黙って続きを待つ。
「酒場での発砲は事実です」
「しかし発砲した状況や、その後の混乱を考えると、重大事件として起訴するには難しい。だからといって、すぐ釈放すると政府が世論に押されたようにも見えてしまう」
私はゆっくり理解し始める。
「つまり……法律ではなく政治の都合なんですね」
弁護士は小さく頷いた。
「残念ながらその面も否定できません」
私はため息をついた。
「難しいですね」
弁護士は微笑む。
「ですが、一つだけ安心してください。世論はあなたに不利ではありません。新聞、支援の手紙、社説、どれも少しずつ状況を変えています」
私は窓の外を見る。
鉄格子の向こうには青空が広がっていた。
弁護士は書類を閉じる。
「私も正式に動きます。法廷だけではありません。法に基づいて、早期の釈放を求めます」
私は深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
弁護士は穏やかに笑う。
「こちらこそ。こんなに勉強熱心な依頼人は初めてです」
机の上に置かれた政策ノートを見て苦笑する。
「普通の依頼人なら、不安で眠れなくなります。あなたは本を書き、政策をまとめ、本まで出版しようとしている」
私は少し照れ笑いを浮かべた。
「時間がもったいないので」
弁護士は立ち上がり、一礼した。
「その前向きさなら、きっと乗り越えられます」
そう言って部屋を後にした。
私は静かに政策ノートを開く。
釈放の日は、まだ決まっていない。
それでも、一歩ずつ前へ進んでいることだけは確かだった。




