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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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16/23

敗色

私は新聞を机の上へ並べた。

一日分ではない。数か月分だ。

古いものから新しいものまで順番に積み上げる。


外交官時代からの癖だった。

単体の情報ではなく、流れを見る。

そうしなければ見えないものがある。

私は一番古い新聞を開いた。


『我が帝国軍、春季大攻勢開始』


『敵軍を圧倒』『勝利目前』『祖国に栄光を』


威勢の良い見出しが並ぶ。

次の新聞。


『敵軍を撃退』『戦線は安定』『攻勢継続中』


さらに次。


『戦略的再配置』『防衛線再構築』

『突出部整理完了』


私は手を止めた。

そして数枚前へ戻る。

さらに別の日の記事を確認する。

そして小さく息を吐いた。


「やっぱり……」


言葉が変わっている。


最初は前進。攻勢。突破。勝利。


そんな単語ばかりだった。

だが徐々に変化している。


再配置。整理。再編。防衛。


聞こえは良い。だが意味は違う。

私は紙へ簡単なメモを書き出した。


攻勢

戦線安定

再配置

防衛線構築

総動員


「これ……」


私は車椅子にもたれた。


外交官時代。


何度も見た流れだった。

どこの国も同じだ。

勝っている時は勝利を語る。

苦しくなると防衛を語る。

そして本当に追い詰められると精神論を語り始める。


私は最近の新聞を手に取った。

そこには大きく書かれている。



『祖国のために働こう』

『一人一人の努力が勝利を生む』

『国民の団結こそ最大の武器』


私は思わず苦笑した。


「精神論が増えてきたわね……」


もちろん精神力は大事だ。

だが戦争は精神力だけでは勝てない。

必要なのは兵器。


食料。燃料。輸送。そして生産力。


新聞の中には、それらが不足している兆候が溢れている。


私は窓の外へ視線を向けた。

空は青かった。平和そうに見える。

だが紙面の向こう側では違う。

何かが崩れ始めている。


私は再び新聞へ目を落とした。

最近の記事には奇妙な特徴があった。


戦果が曖昧なのだ。


敵兵を何人倒した。敵陣地を占領した。

そういった具体的な内容が減っている。


代わりに増えたのは、


英雄。献身。覚悟。忍耐。


そんな言葉だった。


「数字が消えてる……」


思わず呟く。

数字は嘘をつきにくい。

だから都合が悪くなると消える。

それも前世で何度も見た。


私は地図を広げた。

新聞に書かれた地名を確認する。

そして別の日の記事と比較する。


さらに比較する。また比較する。


すると見えてくる。


「あれ……?」


最初は気のせいかと思った。

だが違う。戦線が少しずつ後退している。

新聞は決してそう書かない。

記事に登場する地名が変わっている。

前線の位置が変わっている。


つまり。


「後ろへ下がっている……」


私は地図を見つめた。

記事だけ読めば分からない。

地図と合わせると見える。

戦線は帝国側へ近付いていた。


少しずつ確実に。私はしばらく黙り込んだ。

まだ断定はできない。

情報源が少なすぎる。

新聞だけで結論を出すのは危険だ。


だがそれでも外交官としての経験が警鐘を鳴らしている。


「この戦争……」


そこまで呟き。

言葉が止まる。


認めたくない。だが可能性としては高い。

私は机の上の新聞へ視線を落とした。


『勝利』『栄光』『祖国万歳』


そんな見出しが並ぶ紙面を見ながら、小さく息を吐く。


「負けているんじゃないの……?」


部屋には静寂だけが残った。

そして、その答えを知るためには、もっと多くの情報が必要だった。

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