父という人物
父の書斎を訪れてから数日。
私は改めて当日の記憶を整理していた。
あの部屋には多くの情報があった。
書類。地図。本棚。そして家族写真。
人は自分の興味のある物を周囲に置く。
それは前世でも変わらなかった。
外交官。軍人。政治家。経営者。
机を見れば、その人物が何を考えているかある程度分かる。
そして父――グラウベ・フォン・シュタインベルクについても、少しずつ見えてきたものがあった。
私はノートへ簡単な整理を書き込む。
軍人。高官。地図が多い。
輸送関係の資料が多い。経済関連の本も多い。
補給路の書き込み多数。
私はペンを止めた。
「うん……」
少なくとも剣を振り回して突撃するタイプではない。そんな印象だった。
前世でも軍には様々な人間がいた。
最前線で指揮を執る者。
補給を担当する者。
兵器開発を担当する者。
作戦を立案する者。
軍人と一言で言っても仕事は多岐に渡る。
父の書斎を見る限り――
「前線指揮官という感じではないわね」
むしろ、後方担当。参謀。
あるいは補給や作戦計画に関わる人物。
そんな印象を受けた。
私は窓の外を見た。
庭ではザンフトが遊んでいる。
相変わらず元気だ。
「お姉様ー!」
遠くから手を振っている。
私は小さく手を振り返した。
すると満足したのか、再び駆け回り始める。
思わず苦笑した。
その様子を眺めながら考える。
戦争は前線だけでは成り立たない。
兵士を運ぶ鉄道。食料を運ぶ貨車。
武器を作る工場。それらを管理する組織。
全てが必要だ。
そして多くの場合。
戦争の勝敗は最前線よりも後方で決まる。
それは前世で嫌というほど見てきた。
再びノートへ視線を戻す。
私は父の名前を見つめた。
グラウベ・フォン・シュタインベルク。
まだ会ったことはない。
だが少なくとも無能ではなさそうだ。
いやかなり優秀な人物かもしれない。
でなければ、あれほどの資料を扱う立場にはなれないだろう。
「高官なのは間違いなさそうね」
私は小さく呟く。
問題はそんな人物が今どこで何をしているのか。そして、この戦争をどう見ているのかだった。
私はノートを閉じる。
書斎だけで分かることには限界がある。
やはりいつか本人と話す必要があるだろう。
だが、その日はまだ先になりそうだった。
今の私には、まだ集めるべき情報が山ほど残っているのだから。




