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平和を望んだ少女は、戦争へ進む。 〜敗戦国の再建を目指した少女の誤算〜  作者:


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14/24

父の書斎

ザンフトと庭を散歩してから数日。


私はようやく屋敷の中を短時間なら歩けるようになっていた。


もちろん侍女付きだ。

転んで再び頭を打たれたら困るらしい。


その日は屋敷の廊下を歩きながら、ふと気になったことを口にした。


「お父様のお部屋はどこにあるの?」


侍女が少し驚いた顔をした。


「旦那様の書斎でございますか?」


「ええ」


侍女は少し考え込む。


「本来であれば勝手にお入れする訳には……」


やはりそうか。

重要な書類もあるだろう。

軍人なら尚更だ。

私は少し考えた後、言葉を続ける。


「思い出すきっかけになるかもしれないの」


記憶喪失。


便利な言葉だった。

侍女は困った顔をしたが、やがて小さく頷いた。


「少々お待ちください」


その日の午後。


許可が下りたらしい。

私は侍女に支えられながら三階の一番奥へ向かった。


重厚な木の扉。真鍮の取っ手。

他の部屋より明らかに格式が高い。


「こちらでございます」


扉が開く。

私は思わず足を止めた。


広い。

それが第一印象だった。壁一面の本棚。

大きな執務机。暖炉。

そして窓際には巨大な地図。


軍人の書斎らしい部屋だった。


私はゆっくりと中へ入る。

机へ近付く。だがすぐに違和感を覚えた。


綺麗すぎる。机の上には埃がない。


しかし使われた形跡もない。

まるで時間が止まっているようだった。


「お父様は長く戻られていないの?」


私の問いに侍女は静かに頷く。


「半年ほどになります」


半年。


思ったより長い。

私は窓の外へ視線を向けた。

戦争。やはり父は前線にいるのだろう。

次に本棚へ目を向ける。


歴史書。地理書。軍事書。戦史。経済。

産業。鉄道。港湾。物流。


私は少し驚いた。

もっと戦術や武器の本ばかりだと思っていた。


だが違う。


むしろ目立つのは輸送や生産に関する本だった。私は一冊を手に取る。


『戦時輸送論』


さらに別の本。


『鉄道網と補給計画』


思わず眉を上げた。


「意外ね」


軍人というより。

行政官。あるいは参謀に近い。

そんな印象だった。


そして部屋の奥。

壁に掛けられた大きな地図へ近付く。

そこには無数の書き込みが残されていた。


赤線。青線。矢印。数字。鉄道路線。

河川。港。補給基地らしき印。


私は地図を見つめる。

戦線よりも補給路の方が目立つ。

この人は何を考えていたのだろう。

敵を倒すことか。戦争に勝つことか。

それとも別の何かか?


その時だった。

机の端に小さな写真立てを見つける。

私は手を伸ばした。写っていたのは四人。


金髪の男性。リーブ。

幼い少女が二人。

おそらくヴィーダーベレとザンフト。

家族写真だった。自然な笑顔。

戦争など存在しないような穏やかな一枚。

私は静かに写真を見つめる。

前世では何度も見てきた。

兵士達の机の上に置かれた家族写真を。


夫。妻。子供。恋人。


皆、守りたいものがあった。

だから戦場へ行った。

戦争が好きだからではない。

守りたいものがあったからだ。

私は写真を元の場所へ戻した。


そしてもう一度、静かな書斎を見回す。


会ったことのない父。

だが本当に少しだけ。

どんな人物なのか分かった気がした。

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