ウス・ライの社説
勾留生活も一週間を過ぎた頃。
今日は面会日だった。
鉄格子の向こうから、慌ただしくラインとヴィルが駆け込んでくる。
「お嬢様!ご無事ですか!」
私は笑顔で手を振った。
「ええ。元気よ」
その横で、ヘルムは二人の姿を見た瞬間、小さくため息をついた。
「……やっぱりか」
ラインの口元には、何かで塞がれていたような赤い跡が残っている。
ヴィルの両手首にも、縄で縛られていたような跡がはっきりと見えていた。
二人もヘルムの顔を見る。
目の下には寝不足。
そして何より、昨日とは比べ物にならないほど青ざめた顔だった。
三人はしばらく無言で見つめ合う。
「……」
「……」
「……」
最初に口を開いたのはラインだった。
「来ましたね?」
ヘルムは静かに頷く。
「ああ」
ヴィルも苦笑する。
「やっぱり、こちらにもですか」
私は一人だけ話についていけない。
「え?何の話?」
三人は同時にこちらを見る。
「何でもありません!」
「何でもないです!」
「何も知らなくていい!」
あまりにも息の合った返事だった。
私は首を傾げる。
「変なの」
ヘルムは小さく咳払いをした。
「……決めた」
「何をですか?」
ヘルムは真顔で答える。
「三人とも二度と酒は飲ませない」
ラインは即座に頷く。
「賛成です」
ヴィルも力強く頷いた。
「異議ありません」
私は不満そうに口を尖らせる。
「えぇー?」
「一回だけじゃない」
三人は声を揃えた。
「一回で十分です!」
面会室は一瞬だけ笑いに包まれた。
その時、看守が新聞を持ってきた。
「今日の朝刊です」
私は新聞を受け取り、一面を開く。
そこには、ウス・ライの社説が大きく掲載されていた。
『酒場の発砲は擁護できない。しかし、政治家が国民へ本音で語ったことまで否定してはならない』
私は黙って読み進める。
記事にはこう書かれていた。
「拳銃を発砲した行為は明らかに間違っている。しかし、あの日酒場で語られた言葉には、国民へ政治へ参加してほしいという真剣な思いがあった」
「私達は失敗だけを笑うのではなく、その奥にある言葉まで否定してはならない」
私は新聞を静かに閉じた。
「ウスさんらしい記事ね」
ヘルムも頷く。
「発砲は擁護しない。だが、お前の考えは評価している。記者として一番公平な書き方だ」
ラインも新聞を読みながら笑った。
「世論も少し落ち着いてきています」
ヴィルも続ける。
「支持率も大きくは落ちていません。むしろ、『失敗はしたが本気だった』という見方が増えています」
私は少し安心したように息を吐く。
「よかった……」
その頃。
新聞を読んだ街の人々も、それぞれ感想を口にしていた。
「酒場で発砲はやり過ぎだ」
「でも演説は良かった」
「選挙へ行こうと思った」
「失敗はしたけど、あの子は本気なんだな」
少しずつではあるが、世論の熱は落ち着きを取り戻し始めていた。
私は窓から空を見上げ、小さく呟く。
「失敗は消えない。でも、その失敗から何を学ぶかは、自分で決められる」
ヘルムは静かに笑った。
「その考えなら、大丈夫だ」
私は頷き、新しくまとめ始めた政策ノートを開く。
「さて!反省はここまで次は共和国の未来を考えましょう」
牢屋の中であっても、ベレの歩みは止まることはなかった。




