新聞の一面
牢屋生活二日目。朝。
鉄格子の向こうから新聞が差し入れられた。
「ほらよ」
看守が笑いながら新聞を投げる。
私は首を傾げながら受け取った。
「新聞?」
一面を開いた瞬間、固まった。
『酒場で熱弁!十五歳議員、拳銃を天井へ一発!』
『議員、酒場で即席演説会!』
『政府批判の大合唱、警察が保護』
「……」
私は静かに新聞を閉じた。
「帰りたい」
隣でヘルムが肩を震わせている。
「読むんだ」
「嫌です」
「現実を見ろ」
渋々もう一度開く。
記事には酒場でのやり取りが細かく書かれていた。
『選挙へ行け』
『文句を言うだけでは何も変わらない』
『今できることを一歩ずつやる』
思った以上に演説部分が大きく載っている。
私は頭を抱えた。
「全部書かれてる……」
ヘルムは苦笑する。
「ウス・ライだからな。一言一句覚えていたらしい」
昼頃になると、別の新聞も届いた。
新聞社によって論調は様々だった。
ある新聞は、
「議員としてあるまじき行為」
と厳しく批判していた。
しかし別の新聞では、
「発砲は問題だが、演説の内容には共感する」
という社説が掲載されていた。
さらに街頭インタビューも載っている。
「言ってることは間違ってない」
「選挙へ行けって話は、その通りだ」
「酒は飲み過ぎだが応援は続ける」
「少なくとも本音で話していた」
賛成。反対。世論は真っ二つだった。
私は深いため息をつく。
「はぁ……もう、お酒はしばらく飲まない……」
ヘルムは即答した。
「一生飲むな」
「そこまで?」
「そこまでだ」
牢屋の中へ笑いが広がる。
しばらく笑った後、私は机代わりの小さな棚へ手帳を並べ始めた。
「せっかくだし。時間を無駄にはしたくないわ」
何冊もの手帳。工場視察。財務資料。銀行。
工業学校。農業機械。ブランド構想。
今まで歩いてきた現場の記録がびっしり書かれている。
私はページをめくりながら、小さく呟く。
「意外と書いてるものね」
ヘルムも覗き込む。
「それだけ現場を歩いた証拠だ」
私は紙を何枚も並べ、内容ごとに整理を始める。
「財政、工業、農業、教育、輸送、情報公開。少しまとめ直しましょう」
ヘルムは感心したように頷く。
「勾留中に政策をまとめる議員なんて、お前くらいだ」
私は笑う。
「どうせ外へ出られないんだもの。だったら、この時間も使わないと損でしょう?」
鉄格子の外では、相変わらず世間が騒いでいる。
しかし、その騒ぎとは裏腹に、ベレは静かな牢屋の中で、自分の歩んできた道と共和国の未来を一冊のノートへまとめ始めるのだった。




