酒場の大演説
ヘルムは大きくため息をついた。
「ここからが問題なんだ……」
私は首を傾げる。
「まだ何かあったの?」
「……あった」
店内の一人の男が鼻で笑った。
「けっ。たかだか八人の政党だろ?何も出来ねぇよ」
私はその男をじっと見つめる。
「……」
ヘルムは嫌な予感しかしない。
「ベレ……座れ」
しかし、もう遅かった。
私は椅子から勢いよく立ち上がる。
「あー?今発言した、そこの図体だけデカくて頭空っぽ!」
店内が一瞬静まり返る。男も目を丸くした。
「なんだと?」
私は指を差す。
「あんた!いきなりその図体になったの?違うでしょ!おっぱい飲んで!ご飯食べて!少しずつ大きくなったんでしょ!私達だって同じ!まだその段階なんだよ!」
店内から「おぉ……」という声が漏れる。
男は顔を真っ赤にする。
「このガキ!」
その瞬間。
パンッ!!
乾いた銃声が店内へ響いた。
全員が固まる。
天井から木くずがぱらぱらと落ちる。
ヘルムは頭を抱えた。
「げっ……」
私は拳銃を天井へ向けたまま叫ぶ。
「私の話を聞けーーー!!」
店中が静まり返る。
「誰だって!最初から上手くいけば苦労しねーんだよ!!だから!今出来ることを、一歩ずつやってんだ!!」
誰も声を出せない。
私はそのまま演説を続ける。
「それより!お前ら!今から政府に抗議行くぞ!!」
店内がざわつく。
「この国の心臓部を取られて!何も出来ねぇ軟弱政府に抗議だ!!」
一人の客が立ち上がる。
「お、おう!」
別の客も続く。
「そうだ!国として抗議くらい出来るだろ!」
さらに奥から声が飛ぶ。
「それにな!あんな簡単にルー地方が落ちるか?軍だって、まだ残ってるはずだ!」
「売国奴がいたに違いねぇ!」
店内は一気に熱気に包まれる。
「そうだ!」
「行くぞ!」
「政府へ!」
私は拳を突き上げた。
「今こそ!政府をぶっ飛ばせーーー!!」
「おーーーーーっ!!」
酒場中が大歓声に包まれる。
その一方で。
ヘルムは静かに額を押さえていた。
「終わった……」
ラインは青ざめている。
「ヘルムさん……」
ヴィルも顔を引きつらせる。
「誰ですか……お嬢様に拳銃を持たせたのは……」
ヘルムはゆっくり自分を指差した。
「……俺だが、発砲を止める暇がなかった」
ウス・ライが腕を組んで立っていた。
肩を震わせながら必死に笑いを堪えている。
「ぶふっ……いやぁ……話題性には尽きませんなぁ」
手帳を開きながら呟く。
「酒場で発砲、そのまま即席演説。挙げ句の果てには政府へ抗議行進……普通の政治家なら一面で叩かれる。でも、あの子なら……」
口元を押さえながら笑う。
「今日の新聞、一面は貴女の事で持ちきりですよ」
そして、その直後。
酒場へ駆け付けた警官隊によって、ベレ達は全員まとめて保護――もとい、連行されることになった。
ヘルムは話を終えると、大きく息を吐いた。
私は牢屋の中でぽかんと口を開ける。
「……私、本当にそんなことしたの?」
ヘルムは即答した。
「した。しかも満面の笑みでな」
私は両手で顔を覆った。
「……お酒って、怖いわね」




