止まった輸送路
数日後。財務省から戻ってきたルマルは、一枚の資料を机へ広げた。
「見てください」
私は資料へ目を落とす。
鉄道輸送量。石炭搬入量。鉄鋼出荷量。
どの数字も大きく落ち込んでいた。
「こんなに……」
ルマルは地図を広げる。
「ルー地方から首都へ向かう主要鉄道です」
赤線で引かれた路線の途中には、大きな×印が付いていた。
「現在、この区間が使えません」
私は静かに尋ねる。
「迂回は?」
「あります。ですが輸送量は半分以下になります」
部屋は静まり返る。
その時、一人の工場主が党本部を訪ねてきた。
「ヴィーダーベレ議員。申し訳ありません。工場を止めることになりました」
私は驚く。
「どうしてですか?」
工場主は力なく笑った。
「鉄が届きません。石炭もありません。機械を動かせないんです」
ルマルも小さくため息をつく。
「やはり……」
さらに午後には商人も訪れた。
「商品の値段がまた上がります。運べない物が増えています」
私は思わず頭を抱えた。
「物価まで……」
商人は頷く。
「品物が少なくなれば値段は上がります。市場も混乱しています」
私は窓の外を見る。
市場では、昨日まで並んでいた商品が少しずつ減っていた。
値札も、また書き換えられている。
「これじゃ……」
小さく呟く。
「状況が段々と悪くなるばかり」
誰も否定できなかった。
ヘルムが腕を組みながら言う。
「だから戦争は恐ろしいんだ。前線だけで人が死ぬわけじゃねぇ。工場も止まる。物流も止まる。商売も止まる。国そのものが少しずつ弱っていく」
私は静かに頷いた。
今まで私は、戦争と産業を別々に考えていた。
しかし違う。鉄道が止まる。石炭が届かない。
工場が止まる。仕事がなくなる。物価が上がる。生活が苦しくなる。
全部が一本につながっていた。
私はゆっくり立ち上がる。
「戦争は……」
部屋のみんなが私を見る。
「前線だけじゃない。国全体を戦場にしてしまうのね」
ルマルも静かに頷く。
「その通りです。だから経済を守ることも、国を守ることなんです」
私は再び地図へ目を向けた。
そこに描かれているのは、ただの線路ではない。人々の暮らしを支える命綱だった。
その命綱が、今まさに断たれようとしていた。




