初めての輸出計画
商工会議所では、商人や工場主との意見交換が続いていた。一人の商人が地図を広げる。
「ヴィーダーベレ議員。共和国製の商品ですが、隣国でも売れそうです」
私は地図を覗き込む。
「隣国へ?」
「はい!品質が良ければ十分勝負できます。工具や農具、それに家庭用品も需要があります」
私は腕を組みながら考えた。
「輸出……」
前世では当たり前だった言葉。
しかし、この共和国では戦争の影響で貿易そのものが大きく落ち込んでいる。
商人は続ける。
「外貨も入ります。工場も忙しくなります。雇用も増えます」
私はゆっくり頷いた。
「魅力的なお話です」
「でも」
部屋が静かになる。
「まずは国内を安定させましょう。工場が安定して国民へ商品が行き渡ってその上で輸出です。国内で足りないのに国外ばかりへ売るのは、本末転倒ですから」
商人達は納得したように頷いた。
「確かに、その通りです」
私は笑顔になる。
「でも目標としては、とても良いですね。いつの日か共和国製の商品が世界中で使われる。そんな未来を目指しましょう」
ルマルも穏やかに微笑む。
「外貨を稼げれば、経済もさらに安定します」
私は窓の外を眺める。
「少しずつ前に進んできてるね」
ヘルムが腕を組んで笑う。
「ああ。最初は八人しかいなかった党が、ここまで来た」
私は嬉しそうに頷く。
「農業機械も動き始めた。工業学校も形になりそう。工場もブランドづくりを始めた。中々いい感じ」
ルマルが付け加える。
「農業機械が完成すれば、生産性もかなり上がるでしょう。食料が増えれば、工業へ回せる人も増えます」
私は大きく頷いた。
「ええ。全部つながってる」
その時だった。
党本部の扉が勢いよく開いた。
バンッ!
「ベレ!」
真っ青な顔をしたウス・ライが飛び込んでくる。肩で息をしながら机へ新聞を叩きつけた。
「聞いたか!?」
私は立ち上がる。
「どうしたんですか?」
ウス・ライは荒い息のまま叫ぶ。
「ランス軍だ!それにルギー軍も動いた!」
部屋の空気が一変する。
ヘルムの表情から笑みが消えた。
ラインも新聞を手に取る。
私は信じられない思いで尋ねる。
「何があったんですか?」
ウス・ライは震える指で新聞の見出しを指した。
『ランス軍・ルギー軍、ルー地方を占領』
「……はい?」
その一言しか出なかった。
ルー地方。つい数日前まで歩いていた工業地帯。工場。技術者。工業学校構想。農業機械の試作。共和国製ブランド。
そのすべてが頭をよぎる。
ルマルが新聞を読み、顔色を変えた。
「まさか……」
ヘルムは静かに拳を握り締める。
「最悪のタイミングだな」
私は新聞を見つめたまま動けなかった。
ようやく見え始めた共和国の未来。
その中心とも言える工業地帯が、突然戦火に飲み込まれようとしていた。




