知恵を守る制度
翌日。商工会議所。
昨日の試作品の話で、技術者達は早くも設計図を書き始めていた。
私はその様子を嬉しそうに眺める。
「形になりそうね」
すると、隣にいたルマルが静かに口を開いた。
「一つ問題があります」
私は首を傾げる。
「問題?」
ルマルは設計図を見つめながら頷く。
「これだけでは、他社に真似されます」
部屋が静まり返る。工場長も腕を組む。
「確かに……売れたら、すぐ真似されるでしょうな」
私は考え込む。
「それじゃあ、最初に開発した人が損をするわね」
ルマルは机に紙を広げた。
「そこで必要になるのが制度です」
「制度?」
「はい」
「新しい技術や仕組みを考えた人を守る制度です」
私は興味深そうに身を乗り出した。
「詳しく教えてください」
ルマルは三本の線を引いた。
「まず一つ目、特許です。新しい発明を一定期間保護します」
「勝手に真似できなくなるわけですね」
「その通りです」
続いて二本目。
「実用新案。大発明ではなくても、便利な工夫を守る制度です」
私は思わず頷く。
「なるほど。私が言った”修理しやすくする”みたいな改善も?」
ルマルは笑顔になる。
「まさに、そのような改良です」
最後に三本目。
「商標」
工場長が首を傾げる。
「商標?」
「商品の名前や印を守る制度です」
私は昨日話したことを思い出した。
「共和国ブランド……」
ルマルも頷く。
「ええ。良い商品を作っても、名前まで真似されたら信用は築けません」
私は腕を組みながら考える。
「つまり技術を守る制度、工夫を守る制度、名前を守る制度、全部必要なのね」
「その通りです」
部屋にいた技術者達も感心したように頷いていた。
一人が口を開く。
「今までは、真似されたら仕方ないと思っていました」
ルマルは静かに答える。
「だから技術が育ちにくいのです。守られると分かれば、もっと新しい物へ挑戦できます」
私は窓の外を見ながら呟いた。
「技術を守る、ブランドを守る、それも国の仕事なのね」
ヘルムが腕を組みながら笑う。
「ようやく政治家らしい話になってきたじゃねぇか」
私は苦笑した。
「物を作るだけじゃ駄目。作った人も守らないといけないのね」
ルマルは満足そうに頷く。
「そうです。知恵も財産です」
私は机の上の紙へ、大きく一行書き加えた。
『共和国製――信頼される品質を目指す』
その文字を見つめながら、小さく笑う。
「いつの日か『共和国製だから安心』」
「そう言ってもらえる国にしたいわね」
部屋にいた全員が、その言葉へ静かに頷いた。
技術を守ること。名前を守ること。
そして信用を育てること。
共和国の新しい産業は、その土台づくりから始まろうとしていた。




