試作品第一号
数日後。
再び私は商工会議所を訪れていた。
前回の話を受け、技術者や工場関係者が集まっている。
商工会議所の担当者が口を開いた。
「ヴィーダーベレ議員。ご提案いただいた件ですが。まずは家庭用トースターから試作してみようという話になりました」
私は思わず笑顔になる。
「本当ですか?」
「ええ。構造も比較的単純ですし、試作品としては最適でしょう」
机の上には設計図が何枚も並べられていた。
私は一枚ずつ目を通していく。
しばらく眺めた後、小さく首を傾げた。
「もう少し簡単にできませんか?」
技術者が驚く。
「簡単に?」
私は設計図を指差した。
「部品が多すぎます。壊れた時に交換しやすい構造の方が、家庭向けには良いと思います」
「なるほど……」
技術者達は設計図へ赤線を書き込み始めた。
私はさらに続ける。
「性能だけじゃありません。修理しやすいこと。長く使えること。誰でも扱えること。それも商品として大切です」
工場長が感心したように頷く。
「議員というより、設計者の考え方ですね」
私は苦笑した。
「発明するのは皆さんです。私は使う人の立場で考えているだけですよ」
その言葉に、技術者達は納得したように笑った。
会議も終盤。
私はもう一枚の紙を机へ置いた。
そこには簡単な絵が描かれていた。
大きな車輪。運転席。
そして前には畑を耕す装置。
技術者達が首を傾げる。
「これは?」
私は答える。
「畑を耕す機械です。戦車を作れる技術があるなら、応用できませんか?」
部屋が静まり返る。
ヘルムが腕を組む。
「なるほどな。履帯を車輪に変えるか、そのまま使うかは別として、発想は悪くねぇ」
私は続ける。
「人や馬だけでは限界があります。農業も機械化できれば、生産量はもっと増えると思います」
農業担当の技術者が設計図を見ながら呟く。
「農業用機械……考えたこともありませんでした」
私は笑顔で言った。
「すぐ作れとは言いません。でも案として残してください。いつか必ず必要になります」
技術者達は真剣な表情で頷いた。
その頃。
少し離れた場所では、ウス・ライが窓越しに会議の様子を眺めていた。
「また何か始めたな」
手帳を開きながら苦笑する。
「議員がわざわざ商品開発とは……」
普通なら法律を作り。演説をして政争を繰り返す。それが議員だ。
しかし、あの十五歳の少女は違う。
工場へ行き。病院へ行き。学校を歩き。
今度は商品開発まで始めている。
しかも、その次は農業機械?
思わず笑ってしまった。
「本当に発想がぶっ飛んでるな。戦車を見て、畑を耕す機械を思いつく議員なんて初めて見たぞ」
ペンを走らせる。見出しはすぐ決まった。
『議員は法律だけを作るものか――十五歳が挑む共和国のものづくり』
書き終えると、ウス・ライは満足そうに頷く。
「だから面白い。次は何を始めるのか、全く読めない」
窓の向こうでは、ベレが技術者達と楽しそうに設計図を囲んでいた。
共和国を変える方法は、議場だけではない。
工場にも。畑にも。
そして、人々の暮らしの中にもある。
ベレは、その未来を少しずつ形にし始めていた。




