故郷からの返事
数日後。党本部。
ラインの元へ、一通の手紙が届いた。
差出人は――グラウベ。
ラインは周囲を確認すると、静かに封を開ける。中には、短い手紙が一枚だけ入っていた。
ラインへ。
暗号文、確かに受け取った。
早速、動いてみたよ。
いやー、久々にワクワクしちゃった。
昔取った杵柄ってやつだな。
諜報工作隊にいた頃を思い出したよ。
領都の役場。学校。教会。
昔を思い出しながら、全部回ってきた。
必要な記録も確認したし、少しだけ手を加えておいた。これで当面は問題ないだろう。
……しかし、久々に昔の装備を出したら驚いたよ。服が入らなかった。結構ショックだった。
ベレに嫌われないかな?
やっぱり歳には勝てんな。
――グラウベ
ラインは手紙を読み終えたまま固まった。
「……」
「何でこの人は娘のことになるとこうなるのよ!」
思わず机を叩く。
「しかも諜報工作隊って、本当にあったの!?」
軍学校時代。噂だけは聞いたことがあった。
『影の部隊』
『存在を知っていても、存在を証明できない部隊』
そんな都市伝説のような話だった。
「まさか本当に所属していたなんて……」
ラインは頭を抱える。
「しかも何でそれを手紙に普通に書くのよ!」
もう一度、手紙へ目を落とす。
『領都の役場』
『学校』
『教会』
全部回ったと、さらりと書いてある。
「そんな重要なことより……」
視線は最後の一文で止まる。
『服が入らなかった』
ラインは思わず天井を見上げた。
「知らんがなー!そこは報告しなくていいでしょう!」
すると隣で書類を整理していたヴィルが、不思議そうな顔をする。
「何かありましたか?」
ラインは慌てて手紙をたたみ、懐へしまった。
「……何でもないわ。いや、全然何でもなくないわね」
小さくため息をつく。
「でも、これで一安心か……」
グラウベらしいと言えば、実にグラウベらしい。娘のためとなれば、自ら動く。
しかも昔の経験まで持ち出して。
ラインは苦笑した。
「まったく……娘を溺愛する父親って、本当に厄介ね」
窓の外では、穏やかな風が吹いていた。
ラインは手紙を大切にしまいながら、小さく呟く。
「でも……ありがとうございます、閣下」
その言葉は、誰にも聞こえることなく静かに消えていった。




