数字と現場
数日後。
私は教育省から届いた回答書を持ち、首都近郊の学校を訪れていた。
回答にはこう書かれている。
「学校数は十分に確保されている」
私は校舎へ入るがしかし、目の前に広がっていた光景は、書類とはまったく違っていた。
教室には子ども達がぎっしり座っている。
一つの机を二人、三人で使っている子もいる。
廊下には椅子を並べ、臨時教室になっていた。
教師が申し訳なさそうに頭を下げる。
「終戦後、子どもが一気に増えまして……教員も足りません。教室も足りません」
私は静かに教室を見回した。
資料には間違いなく、
「学校数は十分」
と書かれていた。けれど現場では、「足りていない」それが現実だった。
私は手帳へ書き込む。
「数字だけでは見えないこともある。現場を見なければ、本当の姿は分からない」
教師は少し驚いたように笑う。
「そう言っていただける議員さんは初めてです」
私は子ども達へ微笑み返した。
「また来ます。次は改善策を持って」
その頃。
ウス・ライは党本部の前を何度も行ったり来たりしていた。
どう伝える……?言い方を間違えりゃ、俺まで敵に回しかねねぇ。
ローデンは死んだ。偶然とは思えない。
だが証拠はない。
あるのは、記者としての勘だけだった。
「はぁ……」
大きくため息をついた、その時だった。
「ウス」
突然、後ろから声が掛かる。
振り返ると、ラインが立っていた。
「うおっ!」
思わず肩が跳ねる。
ラインは呆れたように眉をひそめる。
「私を幽霊みたいに驚くな。それで、何の用だ?」
ウス・ライは苦笑した。
「……いや。少し話でもと思ってな」
ラインは少し考えた後、近くの喫茶店を指差す。
「そこでコーヒーでも飲みながら話そう」
二人は店へ入り、向かい合って座った。
コーヒーが運ばれてくる。
しばらく沈黙が続いた。ラインが先に口を開く。
「で?何の用だ?」
ウス・ライはカップを持ったまま、小さく息を吐く。
「ローデンが死んだ」
ラインの表情は変わらない。
「新聞で見たわ」
「そうか」
再び沈黙。
ウス・ライはゆっくりと言葉を選ぶ。
「記者ってのはな。人の秘密を追い掛ける仕事だ。時々、追い掛けちゃいけねぇもんまで追っちまう」
ラインは何も答えない。
ウス・ライは真っ直ぐラインを見る。
「だから忠告だけしとく。どんな秘密でも、必ず誰かが続きを追う。ローデン一人で終わるとは限らねぇ」
ラインの動きが一瞬だけ止まる。
その小さな変化を、ウス・ライは見逃さなかった。
しかし、それ以上は踏み込まない。
カップを置き、立ち上がる。
「俺が言いたいのは、それだけだ。じゃあな」
そう言い残し、店を出ていく。
残されたラインは静かにコーヒーを見つめた。
ウス・ライは確証を持っているわけではない。
だが、何かを感じ取っている。
ラインは小さく息を吐いた。
「……侮れない記者ね」




