初めての委員会
共和国議事堂。
今日は初めての委員会だった。
本会議とは違い、出席者は二十名ほど。
広い議場ではなく、一つの会議室で資料を囲みながら議論が進められる。
私は席に着き、財務省から受け取った資料を机へ並べた。
委員長が議題を読み上げる。
「それでは、財政状況について議論を始めます」
私は静かに手を挙げた。
「質問があります」
委員長が頷く。
「どうぞ」
私は資料を開いた。
「今年度の紙幣発行量は昨年度比で何パーセント増加していますか?また、その増加分は税収減少を補うためなのか、それとも国債償還のためなのか、ご説明をお願いします」
部屋が静まり返る。
与党のベテラン議員が思わず資料から顔を上げた。
「……そこを聞くのか」
財務省の担当官も少し驚いた表情を浮かべる。
「確認いたします」
私は静かに頷く。
「よろしくお願いします」
質問は感情論ではない。
数字。資料。統計。それだけだった。
委員会が終わると、与党のベテラン議員が私のもとへ歩いてきた。
「君は……ずいぶん資料を読み込んでいるようだな」
私は笑顔で答える。
「分からないことが多いので、勉強中です」
ベテラン議員は苦笑した。
「十五歳とは思えん」
その頃。
首都の外れを流れる川沿いでは、多くの警官が現場検証を行っていた。
新聞記者のウス・ライも現場へ駆け付ける。
顔見知りの警官が手を挙げた。
「おう、ウス!来たか」
ウス・ライは周囲を見渡す。
「被害者は」
警官はため息をついた。
「フリー記者のローデンだ」
ウス・ライは小さく眉をひそめる。
「……やっぱりか」
警官が尋ねる。
「知り合いか?」
「顔くらいはな。ゴシップ記事ばかり書いてた男だ」
警官は腕を組む。
「恨みでも買ってたんだろ」
ウス・ライは遺留品へ目を向ける。
財布は落ちている。腕時計もある。
「財布はそのままか」
「ああ、金目当てじゃないな」
ウス・ライはさらに尋ねた。
「他に無くなってる物は?」
警官は首をかしげる。
「今のところ無さそうだな。三発撃たれてる。相当な恨みだったんじゃないか」
ウス・ライは頷いた。
「ありがとう。今度、一杯奢るよ」
警官は笑う。
「楽しみにしてる」
現場を離れながら、ウス・ライは一人考えていた。
いや……違う。これは恨みだけじゃねぇ。
財布は残っている。腕時計も残っている。
物取りではない。そして、もう一つ。
手帳が無い。
ローデンはゴシップ記者だった。
ゴシップとは言え記者にとって手帳は商売道具だ。命の次に大事と言ってもいい。
取材先。証言。名前。
全部そこへ書いていた。
それが無いつまり……誰かが持ち去った。
ローデンは何かを掴んでいた。
だから消された。
ウス・ライは立ち止まり、静かに空を見上げる。
本人が自分で手を下すわけはねぇ。
だが……詰めが甘いな。あの護衛二人のどちらかか……もちろん証拠はない。
あくまでも記者としての勘だった。
しかし、その勘はこれまで何度も事件の真相へ辿り着いてきた。
ウス・ライは小さく息を吐く。
これをベレに伝えるか……いや。下手をすりゃ俺も川に浮かぶ。
苦笑しながら帽子を深くかぶり直す。
だが、伝えなきゃアキレス腱になる。
ローデンは、おそらく知ってはいけないものを知った。
そう呟くと、ウス・ライは静かに現場を後にした。




