返ってきた回答
数日後。
シュタール労働者党の事務所には、各省庁から次々と封筒が届き始めていた。
「来ました!」
ラインが机の上へ封筒を並べていく。
財務省。教育省。商工省。内務省。農業省。
鉄道省。
机の上はあっという間に書類の山になった。
私は思わず笑う。
「全部返ってきたわね」
ヘルムも封筒の数を見て苦笑する。
「役人も大変だったろうな」
「では、見ていきましょう」
最初は財務省。
ルマルが封を開く。
中には何十枚もの資料が入っていた。
紙幣発行量。税収の推移。国債残高。
年度ごとの比較表まで添付されている。
ルマルが頷いた。
「ここは丁寧ですね」
私は資料をめくる。
「質問した内容だけじゃない。関連資料まで付けてくれている。調べやすいわ」
続いて教育省。
教師出身の議員が封を開ける。
中には数枚の書類だけだった。
学校数。教員数。予算総額。
「以上」
教師は苦笑する。
「必要最低限ですね。質問した半分くらいしか答えていません」
私は頷いた。
「仕事はしている。でも、積極的ではない」
次は商工省。
商人の議員が読み始める。
しばらくすると眉をひそめた。
「一部回答拒否です」
「企業との契約内容については回答できません」
「価格調査についても非公開」
私は静かにメモを取る。
「理由は書いてある?」
「機密保持のため、とだけ」
ルマルが腕を組む。
「説明が少ないですね」
最後は内務省。
元軍人が封を開く。
部屋が静まり返った。
一枚目。『回答できません』
二枚目。『公開できません』
三枚目。『調査中です』
元軍人が苦笑する。
「全部これだ」
ヘルムが思わず吹き出した。
「ここまで徹底してると逆に笑えるな」
私は資料を受け取り、ゆっくり読み返した。
「……なるほど」
皆が私を見る。
私は四つの回答を机へ並べた。
「面白いですね」
教師が尋ねる。
「何がでしょう?」
私は一枚ずつ指差す。
「財務省は、数字で説明する文化」
「教育省は、必要なことだけ答える文化」
「商工省は、情報管理を重視する文化」
「内務省は、慎重すぎる文化」
部屋は静まり返る。
私は続けた。
「回答そのものも大切です。でも、それ以上に、回答の仕方で、その組織の体質が見えてきます」
ルマルも静かに頷く。
「確かに。数字だけではなく、組織そのものが見えますね」
私は笑顔になる。
「これなら次に質問するときも、聞き方を変えられます」
商人の議員が驚く。
「そこまで考えるんですか?」
私は頷いた。
「同じ質問でも相手によって伝え方を変える。それも政治です」
ヘルムは腕を組みながら笑った。
「なるほどな。役所にも性格があるってことか」
私は資料をきれいにまとめる。
「ええ。相手を知らなければ、良い議論はできません」
窓の外では、今日も多くの官僚たちが仕事をしている。
省庁は一つではない。
そこには、それぞれ違う考え方と文化がある。
私は改めて資料へ目を落とした。
「共和国を変えるには、まず、共和国そのものを知らないといけない」
その言葉に、八人の議員は静かに頷いた。




