最初の質問状
数日後。
シュタール労働者党の事務所では、机の上に大量の封筒が並んでいた。
教育省。財務省。農業省。商工省。鉄道省。
内務省。医療局。
それぞれ宛先が違う。
私は一枚一枚を確認しながら頷いた。
「これで全部ですね」
教師出身の議員が封を閉じる。
「教育関係だけでも三十項目です」
医師の議員も苦笑した。
「医療も二十項目あります」
元軍人は書類を束ねる。
「国防関係は、回答が来るかどうか……」
ルマルは眼鏡を押し上げた。
「財務省だけで五十項目ですね」
私は苦笑する。
「少し多かったかしら」
ヘルムは書類の山を見て豪快に笑う。
「いや。役人からしたら悪夢だな」
部屋に笑いが広がった。
私は静かに封筒へ視線を落とす。
「でも分からないことは、聞くしかありません。国民の代わりに質問する。それも議員の仕事です」
その日の午後。
大量の質問状が各省庁へ発送された。
数日後。共和国財務省。
一人の若い官僚が封筒の山を見て目を丸くした。
「また……シュタール労働者党です」
隣の官僚も思わず苦笑する。
「今度は五十項目か」
別の職員が小声で言った。
「本気だな」
財務省では既に有名人だった。
十五歳の少女議員。
議会へ行くより財務省へ来る回数の方が多い。
資料室へ朝から晩までこもり、数字を調べ続ける。そんな噂が、省内では広がっていた。
やがて、その噂は他の省庁へも伝わっていく。
教育省。
「例の議員から質問状です」
「また来たのか」
商工省。
「財務省へ毎日通っている子ですよね?」
「そうそう議会より財務省にいる時間の方が長いとか」
農業省。
「いや、聞いた話では、資料室へ寝袋を持ち込んで寝泊まりしているらしいぞ」
「まさか」
「いや、本当かもしれん」
役人達は笑う。
もちろん事実ではない。
だが、噂というものは人から人へ伝わるたび、大きくなっていく。
「財務省へ住んでいる」
「昼食も帳簿を読みながら食べる」
「数字しか見ていないらしい」
「十五歳なのに変わっている」
尾ひれが尾ひれを呼び、いつしか半ば伝説のようになっていた。
その頃。
財務省では若い官僚達が笑いながら話していた。
「寝泊まりはしていませんよ。ちゃんと夕方には帰っています。でも」
一人が真面目な表情になる。
「資料を読む量は、本当にすごいです」
別の官僚も頷いた。
「質問も的確です。数字を見ている人の質問ですよ」
部屋が静かになる。年配の官僚が呟いた。
「今までの議員とは違うな。答える側も勉強しないといけない」
党本部。
発送を終えた私は、大きく伸びをした。
「これで終わり……ではありません」
ラインが笑う。
「まだあるんですか?」
私は机の上の手帳を開く。
「回答が返ってきたら次は、その内容を分析します」
ヘルムは肩をすくめた。
「役人も休めねぇな」
私は少し照れくさそうに笑った。
「私達も休めませんよ」
窓の外では、今日も共和国の人々が忙しく働いている。
その暮らしを少しでも良くするため。
シュタール労働者党の「質問」は、ようやく始まったばかりだった。




