それぞれの役割
党本部。
円卓には、シュタール労働者党の八人の議員が集まっていた。
議員になってから初めての、本格的な党会議である。
私は皆の顔を見渡した。
「今日は役割を決めます」
元軍人の議員が首を傾げる。
「役割ですか?」
私は頷いた。
「はい!私は全部はできません」
部屋が静まり返る。
「工学や領地経営なら経験があります。でも医療は専門外です。教育も商業も国防も。だから、一人で抱え込むつもりはありません」
私は一人ずつ名前を呼んだ。
「先生!」
教師の議員が立ち上がる。
「教育をお願いします」
「承知しました」
「医師の先生!医療政策をお願いします」
「お任せください」
「元軍人のお二人!国防と帰還兵対策をお願いします」
「了解しました」
「商人のお二人!商業と流通、それから中小企業についてお願いします」
「はい」
最後に私はルマルを見る。
「ルマルさんは、経済全般をお願いします」
ルマルは静かに頷いた。
「承知しました」
私は少し笑う。
「これで少し安心しました」
ヘルムが腕を組んで笑う。
「ようやく分かってきたな?政治家ってのは、一人で何でもやる仕事じゃねぇ」
私は頷く。
「ええ!皆さんの知識を借りて、この党を動かします」
部屋の空気が少し和らいだ。
私は机の上へ、一枚の白紙を置く。
「では!早速ですが、仕事です」
議員達も身を乗り出す。
私は紙を掲げた。
「関係各所へ質問状を書きます」
「質問状?」
私は大きく頷いた。
「皆さん、それぞれの得意分野があります。だから、その分野で疑問に思うことを書いてください」
教師の議員がメモを取り始める。
「教育予算の内訳、学校数、教員不足」
医師も続く。
「病院数、医薬品の供給、感染症の統計」
元軍人は腕を組む。
「退役兵の人数、装備の管理状況、国境警備の現状」
商人はすぐに口を開いた。
「物価、輸送費、各地の関税、商工会への補助」
ルマルも静かに書き始める。
「貨幣流通量、銀行の貸付残高、国債発行額、中央銀行の保有資産」
私は皆の紙を見ながら微笑む。
「そうです!疑問点、矛盾点、説明が足りない部分!全部、質問してください」
元軍人が笑う。
「役所は嫌がりますよ」
私は少し悪戯っぽく笑った。
「でしょうね。でも、議員には国民の代わりに質問する義務があります」
ヘルムは豪快に笑う。
「はっはっは!役所も大変だな!」
私はペンを手に取る。
「分からないことを、そのままにしない!それが私達の最初の仕事です」
机の上には、次々と質問状が積み重なっていく。
教育。医療。商業。国防。経済。
それぞれの専門家が、それぞれの視点で共和国へ問い掛ける。
私はその様子を見ながら、小さく呟いた。
「これなら……一人では見えないものも、皆でなら見えてくる」
シュタール労働者党は、ようやく「ベレ一人の党」ではなく、「それぞれの専門家が支える政党」として歩み始めた。




