止血という改革
翌日。
党本部では再び黒板の前へ議員達が集まっていた。
昨日書いた。
『共和国が破綻する理由』
という文字が、そのまま残っている。
私は黒板の前へ立ったものの、チョークを持つ手が止まった。
「原因は分かりました」
「でも……」
私は皆を見る。
「その先が分かりません」
部屋は静まり返る。私は正直に話し始めた。
「領地の予算なら組めます。自分のお給料で生活することもできます。工場や商会の収支も理解できます。でも、それは経済という土台がしっかりしていたからです」
財務省から借りた資料を持ち上げる。
「国全体の経済を立て直す経験なんて、もちろんありません。だから私は、ここから先は専門家の力を借ります」
そう言ってルマルを見る。
ルマルは静かに立ち上がった。
「では、少しお話ししましょう」
黒板へ歩き、一つの円を書く。
「皆さん。共和国は病人です。ですが、いきなり走らせようとしてはいけません。まず必要なのは治療ではありません。止血です」
黒板へ三つ書く。
・紙幣を無制限に刷らない。
・政府がお金を使い過ぎない。
・通貨への信用を取り戻す。
元軍人の議員が尋ねる。
「これだけで良くなるのですか?」
ルマルは首を横へ振る。
「いいえ。良くはなりません。悪化を止めるだけです」
部屋は静まり返る。
ルマルは続ける。
「ハイパーインフレは火事です。今やるべきことは、新しい家を建てることではありません。まず火を消すことです」
私は思わず頷く。
「なるほど……だから止血なんですね」
ルマルは微笑んだ。
「はい。通貨への信用は、一日では戻りません。土地や工場など、価値の裏付けがある新しい通貨を考えることも、いずれ必要でしょう。しかし、それは次の段階です」
私は議員達を見渡す。
「つまり。今の私達の目標は、共和国を元気にすることじゃない。まず、倒れないよう支えること」
ルマルも頷く。
「その通りです」
私は少し照れながら笑った。
「ありがとうございます。やっぱり私は工学屋ですね。数字は読めても、経済はまだまだ勉強不足です」
ヘルムは豪快に笑う。
「それでいい。分からねぇことを分かったふりする政治家より、百倍信用できる」
私は笑い返した。
「じゃあ、経済はルマルさん、政治は私、皆さんは、それぞれの専門を生かしてください」
八人の議員が力強く頷く。
黒板には新しく大きく書かれた。
『まず共和国を止血する』
共和国再建への第一歩は、一人の天才ではなく、それぞれの専門家が力を合わせることから始まろうとしていた。




